働く女性に贈る知的エンタメ漫画と

7月20日よしながふみ 著 『愛すべき娘たち』(白泉社)を読む。本作は『メロディ』誌に02年7月号から03年10月号まで不定期に掲載されたコミックス。大人の女性向けコミックスと呼べばよいのか。私の感覚からすればレディースコミックというものは性描写の過激さを競い合った家事手伝い向けエロ劇画ということになり『メロディ』誌はその類とは思えない。働く女性に贈る知的エンタメ漫画と勝手に位置付けてみる。奥付によると03年に初版発行されてから13年に第20刷発行と永く読まれ続けているよう。女性向けコミックスの世界にうといので著者の立ち位置もまったく何も知らない。が、何も知らない者でも思わず手にとってしまったのだからやはりロングセラーの磁力を持った一冊なのだ。本作は全5話に渡るオムニバス。個々のエピソードは一話完結だが第一話に登場する三十路で独身のOL、雪子と五十路過ぎの母親、麻里が案内役のようにからむ構成。父親を早くに亡くして母親と二人暮らしで育った雪子は仕事も順調。結婚まであと一息の同僚男性とも円満。母親とも友だちように仲が良いのだが。昨今では四十路女性による母親の過干渉が重いという声が多く聞かれるが10年くらい前は友だち母娘がブームだったような。どちらかといえば富裕層にあたるだろう『メロディ』誌の読者だけでなくストリートギャルも財布代わりに母親連れで遊び歩く光景がその昔にはあったような。顔黒少女群の中に一人だけ即身仏のような大年増が混ざっていた光景があったような。あの頃の友だち母娘の友情がここにきて不協和音を奏で始めているのでは。本作に登場する麻里と雪子の母娘の間には麻里の再婚相手の健が割り入ってくる。ホスト上がりの駆け出し俳優である健は当然イケメンで性格も大人しく高校生の時から熟女好き。という設定にはかなり著者自身の好みが込められている気もするが青年コミックに登場する都合の良過ぎる好色巨乳ヒロインらに比べればご愛嬌か。娘の前で堂々と一緒に風呂に入る新婚夫婦にたまらず家を飛び出し同僚男性と事実婚の形をとる雪子。働く大人同士がプライベートで連絡取り過ぎ、仲良過ぎな作劇はかってのトレンディドラマのよう。著者はおそらくその辺りに影響された世代かと。友だち母娘も生涯のクラスメイトも今は昔の話ではある。が、本作の世界観は母親が重いと嘆き始めた四十路女性のこころの故郷なのでは。今後もしドラマ化するようなことがあればその時はあえて王道のトレンディタッチで跳んで欲しいもの。