勿論一般のお客様にも応援して欲しい

9月24日、史群アル仙 著『臆病の穴』(秋田書店)を読む。本作は秋田書店コミックサイト『Championタップ!』に14年11月から15年5月まで連載された。“ノスタルジックな絵柄で、人間の心の深層を抉る「愛」の短編を14本収録”と裏表紙にある通り吾妻ひでお風の昭和漫画タッチに私は惹かれつい手に取ってしまった。が、人間の心の深層を抉る「愛」についてはもう少し注意が必要だった。14本の短編全部に共通する作風は就学前の児童が両親に見せたがる純朴ぶりというか。第2話『うわぁん』では売れない漫画家が仕事にあぶれ同居中の弟を虐待するも純朴な弟の「どんなことがあったって…僕はずっとキミの味方だから…だから死ねだなんて言わないでよ ね?」という台詞に改心するというストレートに純朴な結末で正直批評のしようがない。第7話『涙魚』で鉢の中の金魚が心を病んだ少年をはげます台詞「弱くても良いのよ」、「あなたはまだ子供 男だって泣いてもいいの」、「泣きなさい もっと!」にも言葉が出てこない。なぜ出てこないかといえば理屈ならば読み飛ばしてよい類の作品でもないようなただならぬ空気がそこにあるから。現在24歳の著者はどっぷりとJ―POP世代。何か詞的な台詞を綴るにも負けないでとかがんばっているからねとか何はなくとも自ら心折れたがる詩情にどっぷり漬かっているのは仕方ない。だがそれだけでこのただならぬ空気というより妖気はでるものなのか。と、おっかなびっくり読み進むと巻末に『臆病の穴が出来るまで』と題されたオマケマンガが。そこには著者が思春期以来の引きこもりで中卒でバイト生活を続けるうちに近年、アーティスト菩須彦なる人物と出会い絵画を始めるまでのいきさつが。その後は1ページ漫画をツイッターに発表すると反響があり取材や仕事の依頼に応えるうちに再びパニックになるが今度は菩須彦氏が起ち上げた事務所に所属し商業媒体にデビューを果たす。「でも私は私のように悩んできた人たちの『想い』をまだまだ描きたりません。こうして『臆病の穴』が完成したのです」というくだりにふと思う。そもそも本作は“私のように悩んできた人たち”のための心の拠所なのではと。法人運営の食堂で一般のお客様ですねなどといぶかしがられながらも安価につられあつかましく食事をしてたら後から歩行器や車椅子に乗った一般以外の常連客で満席になりいたたまれない気持ちになったような。勿論一般のお客様にも応援して欲しいのだろうし応援したくなったのだが。