へなちょこでいいのだと言いたい

2月7日、つげ忠男 著『成り行き』(ワイズ出版)を読む。本作の著者、つげ忠男つげ義春実弟にあたる。兄、つげ義春のようにブームに巻き込まれることもなく断続的に描き続け固定ファンを抱えている。本作は56年以上にもなるその活動の集大成になるかもしれないことを自身が中入りの文章でほのめかしているだけに期待も高まる。内容は書き下ろしの新作が二本と旧作『懐かしのメロディ』(69年『ガロ』菁林堂刊)のリメイク。新作二本を家業のジーンズショップの手伝い傍ら描き上げるまでに一年弱を費やしたという。ブームの波から逃れたつげ義春も納得いかない作品は発表しないことで知られているがブームに乗っていないつげ忠男も安請け合いは決してしない模様。そうして遂に完成した本作の帯文には“2016年、瀬々敬久監督による映画化決定!!”とある。これは恐らく表題作『成り行き』のことだろう。舞台はとある片田舎の廃車だらけの河川敷。若き日の元同僚で今は釣り仲間の老人コンビ、センちゃんとオトウちゃん。二人は近隣の茂みの中で連れの男に乱暴される女を見つけ止めに入る。が、更に逆上した男に殺されかけるも女と三人がかりで共謀して男を惨殺してしまう。その後、センちゃんとオトウちゃんはお互い避け合いひっそり暮らすうちにごく成り行きのように二人ともあっさりとこの世を去る。女は何事もなかったごとく外国人男性と結婚し海外で幸せに暮らしているという取って付けたようにへなちょこなハッピーエンディング。実に今時のピンク映画向き。瀬々敬久監督が着目するのも分かる気がするし映画化に期待も高まる。が、それはあくまで原作通りのへなちょこで不細工な今時のピンク映画に仕上げて欲しいという期待である。91年に竹中直人つげ義春の『無能の人』を原作に迎えて初監督ながら見事ヴェネチア国際映画祭で国際批評家連盟賞を受賞した。同じ様に瀬々敬久監督もこれを機会に国際監督に王手をと壮大なスケールと世界観で本作の映画化に挑むのだとしたら。言わせていただければそれでは全くぶちこわしである。へなちょこでいいのだと言いたい。廃車だらけの河川敷のロケと民家を借りた葬式シーンと海外篇はCGどころかばればれの書き割りで充分成立するはずである。更にはメイキングを瀬々監督と同世代の冷や飯組に撮影させればそちらの方がよりつげ忠男色が色濃く出ると思うのだが。嫌が応にも期待が高まるへなちょこなオープニングを上野オークラにて勝手に待つ。