人生に弱ってる時にフトらくがきして

5月10日、おくやまゆか 著『たましい いっぱい』(株式会社 KADOKAWA)を読む。本書は月刊コミックビームに掲載された著者のマンガを初めて一冊にまとめた「破格の処女単行本」。マンガ以外にも絵本作家、挿絵画家として活動する著者は本書で第19回文化庁メディア芸術祭マンガ新人賞を受賞したのち各方面から注目されているよう。「30過ぎて突如マンガや絵本を描き始めた」著者の5年間の活動の集大成である本書に収録された作品は全部で6タイトル。タッチは時にやまだ紫風であり杉浦日向子風でありほしのよりこ風。作劇は童話風のものから大人の女性向きの家庭劇、落語を題材にした人情劇まである。が、『しりこだまラプソディー』なる連作だけは極端にラフに描かれギャグもふんだんにあり幼稚ゆえに過激。表紙デザインにも本作のキャラクターがフィーチャーされている通りこの連作の評価が受賞につながったと思われる。「人生に弱ってる時に」フトらくがきしてみた本作をたまたま居合わせていた「友人の子供(5歳)が笑い転げて何度も読んで」くれたことに著者はおおいに活力を得たとか。本作『しりこだまラプソディ』はいたずら好きのちいさなゆうれいたちと少年けんちゃんの心通わぬ一方的な交流を描いた喜劇。けんちゃんにはゆうれいたちの姿を見ることができない。見えないまま眠る間に体の中をゆうれいたちに探検されたり宝物の秘本「エッチ」を勝手にスクラップされたり散々な目にあってもけんちゃんは気付かない。「いきものエレジー」、「しあわせはっきょい」と副題の付いた本作はマッドなテイストの大人の寓話の向きもあるが恐らく意図的に力を抜いたラフな可愛らしいタッチには心惹かれる。けんちゃんのお父さんは河童でお母さんは猫という設定もその勢いか学校の友だちには疎外されかけてる背景も寓話風にラフに描かれている。ひとの体の中にもぐり込み食べ物がうんちになっておしりの穴から出て行くまでを追跡レポートするちいさなゆうれいたちの姿に笑い転げる子供と同化したくもなる人生の悲喜こもごもに著者は今も相当弱っている様子。マンガの題材にした不妊治療も実体験らしく「ユラユラ揺れてキラキラ輝く、ファンタジックな才能」はその危うさゆえに今や買い注文が殺到しているよう。『しりこだまラプソディ』が鳴り止まない社会をあろうことか文化庁が支援する時代には逆らうべきなのかどうか。まずはこのマッドな大人の寓話群とじっくり向き合ってから。