らしくもないことはやらない姿勢を

12月20日、EXシアター六本木にて『岡林信康デビュー50周年コンサート 東京公演』を観る。予定されていた山下洋輔スペシャル・カルテットの出演は山下洋輔の負傷欠場により中止に。「どうも沢田研二です。今日は満員なんでやる気になってます」と登場するやいなやのギャグはうけたものの。「山下洋輔くんのファンには申し訳ないので料金を半分お返ししたりはしません」との口ぶりには決意のようなものが。前半一時間後半一時間の長丁場を岡林信康は用意された弾き語り用の椅子には座らず立ったまま歌い切った。残りの歌手人生を悔いのないものにというのが今年のツアーの主題ではあるが。「観てるお客さんらもひょっとしたら見納めですよ」というのは古参の落語家のくすぐりのよう。この切り口でもう十年引っ張るための肉体づくりも万全に見える。思えばジュリーと岡林はデビューは一緒でも岡林が二歳年上の同級生。それ以上にロック対フォークという対抗意識が今もあるよう。ロックに転向して大半のファンを失いエンヤトットを見出した時は残りのファンも去って行ったいきさつを笑まじりに語る余裕と裏腹の台所事情もあるよう。「加藤和彦くんと作ったテクノ作品も失敗した」経緯など忘れていたが。加藤和彦泉谷しげるを大人のシティロッカーに演出した妙技の延長で岡林のテクノ化を試みたのか。高田渡はその頃息子の高田蓮に父さんもYMOみたいにやればと言われて「悲しい顔をしていた」という。らしくもないことはやらない姿勢を貫けるのも身軽さゆえ。当時の岡林の胸中を察することは難しいが。78年に発表した『ミッドナイト・トレイン』は何ということもない岡林流シティポップスだが。当時プロモーションで嫌々出演したテレビの歌番組で一緒だったリタ・クーリッジがこの曲に大変感動してくれたことが忘れられない思い出だとか。去年のツアーでも感動なんて探り当てるものじゃないのだというようなことを語った岡林信康の大きな節目となる本公演はこれで成功なのでは。山下洋輔の代役に急遽エンヤトットバンドからピアニストの加藤実をフル出場させたのも不思議とそうしょぼくれたものでもなく。予定通り「本当は山下洋輔くんらとぐっちょんぐっちょんやって」いたら奇特な観客もやがて爆発していたかもしれず。大体50年前に岡林信康の音楽を青春の応援歌にしていた若者たちが今こうして暮れの六本木のEXシアターに結集している現実は美しいのかグロテスクなのかどうにも判断がつかないのだ。