血圧で人となりを探ろうとするのは

5月19日、『ときめきに死す』(84年にっかつ)をDVDで観る。監督、森田芳光。とある海辺の別荘地でひと夏の共同生活を送る男女。沢田研二演じる青年テロリスト、杉浦直樹演じるお目付け役の医師、樋口可南子演じるコンパニオンの3人を操る司令塔はパソコンに長けた小学生男子。狙うは「新宗教」なるカルト教団の会長という相関図がざっくり説明されただけで物語は最期まで淡々と進行する。本作の樋口可南子の演技が桃井かおりそっくりだと当時も気になっていたが。本作のメインテーマが『戦場のメリークリスマス』のテーマそっくりだと当時は気付かなかった。『戦メリ』のヨノイ役ジュリーで決まりかけていたエピソードは有名。ならばジュリーで正解のポリティカルな娯楽映画を撮ってやろうかという森田演出の野心を感ず。劇中何かと言えば他人の血圧を測りたがる杉浦直樹がおかしい。血圧で人となりを探ろうとするのは戦後派の風習か。再結成時のゴールデンカップスの取材記事に打ち上げのしめにメンバー全員の血圧を測って別れる場面があったから海軍流のたしなみなのかも。ジュリーと樋口可南子のつかの間のラブシーンにはビア樽ほどの大きなガラス瓶にキャンディを入れた物が登場する。こちらは50年代生まれのインテリア感覚では。同じ物に小銭やビー玉を入れておくのが何となくお洒落だったのは70年代初め。どうせなら食べられる物を入れて中に手を伸ばすまでを描く演出には静かな挑発を感ず。本作で森田演出が目指したのは後に「静かな演劇」と呼ばれた技法に近いよう。別役実の真似してるだけですって正直に言わないと当時批判めいた発言もした竹中直人は森田作品には出演していないのでは。互いに何か筋の通し方が違っていたのか。結末には慎重に育てたはずの刺客をあっさり見限ってすぐに代わりが出向く展開もすべて始めから茶番というより予行演習だと、自分たちのしていることはまだその程度なのだという開き直りとヒステリーを感ず。当時テストパターンなる国産テクノバンドがデビューするもやはり予行演習に終わったことも思い出す。謀略の司令塔は子供とPCという設定はいかにも80年代的だが90年代なら霊能者と占い師が適役だったか。現在では未来の独裁者の後ろ盾というものがイメージしにくい。あからさまにそんな風に見える怪人物にもまた代役はいくらでもいそうである。映画史へのオマージュでもありふざけきったコピペでもある本作は空前の大ファール作にしてキネマ旬報ベストテン第12位。