そうしたフラストもいずれもう一皮

6月5日、ゴキブリコンビナート『粘膜ひくひくゲルディスコ』(93年いぬん堂)を聴く。以前この場で映画『盲獣vs.一寸法師』(01年石井プロダクション)について主演男優は劇団ゴキブリコンビナート主宰のDrエクアドルなどと紹介したがこれは誤り。メイキング映像で確認したその男優は凡そ20代。私とエクアドル氏がアマチュア劇団で一緒だったのが20代半ばであり完全な早とちり。お詫びになるかどうかゴキコンの関連商品を紹介させていただく。本作は97年からのゴキコンのサウンドトラックである。が、実況録音盤のようであり音源作品としてスタジオ録りもしくは宅録された物のようでもあり。絵本版『ウルトラマン』の付録にあったいい加減な別録ドラマ付ソノシートのようでもある。ゴキコンの歌劇とは『レインボーマン』や『宇宙刑事シャイダー』のような行き過ぎた演出の特撮ヒーロー物を下敷きにしたグランギニョルをそれらに育てられた90年代の成人に向けて演じるという痛快なもの。作詞作曲はエクアドル氏によるものなのか。すべて勢いまかせの鼻歌調。小学生が描く自作のオリジナル怪獣の絵に捧げたオリジナル主題歌のような。冒頭『リビドー百年戦争』の「夕闇がこの街に降りるとき 獣たちの雄叫びがこだまする」という一節を今適当に「ゆうやみがぁーこのまちにぃおりぃるぅとおきぃー」と口ずさんでみて欲しい。それは大体合ってる。役者陣のボーカルはそれぞれ戸川純風だったり大槻ケンヂ風だったり。古くは市原悦子常田富士男など怪優にもその時代なりのお手本がある。エクアドル氏の演技は映画に出てるときの忌野清志郎に似ていたのも思い出した。照れの爆発とひきこもりの凶行を安直に線で結びたがるこの時代にもゴキコンは健在。17年夏には第32回公演も行われた模様。私が観た初期ゴキコンの劇中歌で最も印象的だったのは小林麻美の『雨音はショパンの調べ』。残念ながら本作には収録されていないが泥の中にも花といったコントラストは既に完成していたような。アイドル女優がスポンサー付きの地下演劇に招聘される図式も俗っぽくなった昨今、ゴキコンにサブカル好きのアイドルが客演してもさほど盛り上がらないと思うが。そうしたフラストもいずれもう一皮ひと剝いてくれたらと期待してしまう。『もらいゲロ』の一節、「ゲロをみるとゲロしたくなることありませんか?」のように人としてこんなギャグで笑いたくないという最後の理性に執拗なくすぐりを止めようとしないゴキコンの生命力に改めて脱帽。