フランチャイズに入れなかったので

9月17日、『愛のお荷物』(55年日活)をDVDで観る。監督、川島雄三。本作はフランス演劇『あかんぼ頌』を映画化するはずが権利がとれず内容を改変したもの。フランチャイズに入れなかったので堂々といただいてより面白い作品をと狙った感。人口抑制を主張する厚生大臣の家族全員に次々と子供ができるという喜劇映画の本作を初めて観た時には同時代の邦画より頭ひとつ抜き出た意欲的作品と思った。意欲的とはどこかがっついている感じがしたことも含む。90年代に日本のバンド、ザ・コレクターズが60年代のマニアックな英国ポップのいただきもので一部人気を集めた際に「ファンは元ネタを知らないから俺たちを天才と思ってる」と語っていたが。ファンならずともいただきものかどうかは何となくわかるものである。が、ファンになった以上そこはこだわらないしファンでなければ全くどうでもいいことだろう。『愛のお荷物』は55年の『キネマ旬報』ベストテンに入っていない。同誌が選ぶ戦後ベストテン入選監督にも入っていない川島雄三に全く興味がない邦画ファンはザ・コレクターズに全く興味がない邦楽ファンと同じ様なものかどうか。本作の中には押し黙っていた人物同士が同時にしゃべり出して失礼、お先になどと譲り合う場面が何度もある。どこか強引に西洋人ぶっているようでもあるから新劇調の演出なのかもしれない。似たような演出で親子だからさりげない仕種も同じ、例えば寝相も同じといった演出は最近のテレビCMにもある。日本映画で人物同士が同時にしゃべり出して譲り合う演出が自然に見える例はあまり思い出せない。当時どんな監督がどんな俳優で演出してもわざとらしくなるものを川島雄三は何故あえてやってみたのだろう。過去に評論家のおすぎが高嶋政宏は日本人には稀にみるベッドシーンの似合う男優と称賛した際、なるほど似合うと納得すると同時にそんなことどうでもいいじゃないかとも私は思った。やっと日本人にもベットの似合う男優がとそれ自体を喜ぶ態度が物悲しいのだ。見た目がオードリー・ヘップバーンでも立っている風景が『ローマの休日』をいただく船橋ヘルスセンターの様では物悲しいのだ。何だか妙ちくりんな物をつくっているなと本作の俳優たちも当時何となく感じていたのかもしれない。が、俳優たちは皆楽しそうで川島演出にはっきりと乗っている。どこか90年代の和製モッズのようでもあり今となってはそっとしておいてあげたい気持ちにも。