大きな声では言えないがこういうのも

12月1日、勝又進 著『赤い雪』(青林工藝社)を読む。本書は漫画家、勝又進が78年から80年までに『漫画ゴラク』などに発表した作品を05年にまとめた既刊の普及版。帯文には“つげ義春水木しげるが絶賛し、2006年度第35回日本漫画家協会大賞を受賞”と紹介されているので著者の略歴を知らない私は近年の若い漫画家と勘違いしていた。今の時代にあえてはっぴいえんどのような音楽を追及する若いミュージシャンの漫画家版なのかと。実際タッチもつげ義春に似ている勝又進は43年に宮城県に生まれた。66年に『ガロ』にてデビューした頃は東京教育大学理学部物理学科の学生だったがその後は大学院に進み原子核物理を専攻と巻末のプロフィールにはある。要するに商業的成功には縁遠かったものの略歴と作風の奇妙なバランスが昨今注目されているよう。07年に病死するまでは原発をストレートに扱った作品も発表している著者はガロ系まんが道においても更に鬼っ子的存在だったが。解説文に登場する池上遼一佐々木マキ呉智英らの知名度と比べてもその神秘性は高まるが作風自体はへたウマというより学童漫画のよう。スクールゾーンの交通安全ポスターのようなタッチで描かれるのは田舎の若い男女の捨て鉢な性愛。つげ義春の『紅い花』を意識したと著者自身も語る『桑いちご』に登場する少年少女のコミュニケーションは殴り合いに噛み付き合い。旅館で芸者遊びをする観光客に「肝臓の薬になるぞ」とドジョウを売り歩いて収入を得るくだりや姿を見せなくなったケンカ友達の少女を「まさか赤痢にでもなったんじゃあんめえな」と心配するくだりの土着性は本物。つげ義春が人気だった60年代のディスカバージャパンブームから10年遅れてというか初めからそこに居た著者のローカリズムは郷土愛とはまた違うような。表題作『赤い雪』に登場する男女が豪雪の中、巨大な酒樽を寝床に逢引きする描写には90年代に細川しのぶが主演するAVでどこか田舎の味噌蔵の大樽の中でからみ合うシーンを思い出す。不景気真只中ゆえかまともな観光ホテルの大浴場でも集団プレイを撮ったりしていたあの時代と『赤い雪』の時代はまったく地続きなのでは。先だって観た村西とおるの記録映画や観るのを止めた松尾スズキの新作映画のことを取り上げるまでもなく結局は酒池肉林もしくは無理心中と昭和男のロマンの終着駅に古いも新しいもないのでは。大きな声では言えないがこういうのも嫌いじゃないと言えるくらいがまず健康と叫べそうな曰くの珍品。