著者のカラオケ姿もふんだんに登場

4月3日、東陽片岡 著『レッツゴー‼ おスナック』(青林工藝舎)を読む。本書は漫画家、東陽片岡が04年から10年までに発表したスナックがらみの漫画に自身のカラオケ講座と美人ママインタビューなどのコラム記事も併せて収録したもの。著者のカラオケ姿もふんだんに登場するが。私はその姿が単行本に現れる度にこのとぼけた男性モデルは東陽片岡作品のマスコットとして装幀が人選したものとばかり思っていた。いかにも90年代的センスだと。しかしゼロ年代以降そこまでとぼける余裕もない様子は嬉し悲しだが。本作にはカラオケ以外にバイク旅ネタもいくつか収録されている。最近テレビの旅番組でも原付で日本中旅する企画が増えたが。『憩いのシアワセスポットは温泉だった。のまき』では中古の原付に跨がった著者が「伊東まで650円くらいで行けちゃうんだもんね」とその経済的で快適な旅の魅力を紹介。夜ともなれば旅館周辺のスナックを飲み歩き美人ママとの交流を深める。考えてみるとそうして後にどうやってたどり着いたか自分でもわからない店のママとはまるで幽霊みたいなものである。サザンクロスの名曲『夜の甲府』の一節である「どうせあなたは 他国の人よ」を思わせる。『手相に出た未来はユメもチボーもなかった。のまき』では歌舞伎町のスナックにて女性に手相を見てもらう。60歳で若い嫁さんもらえるから貢いでもらえばと言われてその気になる著者だが。今現在その年齢に届いたはずの著者が蛭子さんのようにテレビで売れ始めたという話はまったく聞かない。蛭子さんは徳光さん同様にコロナ騒動寸前にバス旅番組を降板したギャンブラーの直感を持っているが著者にはそこまでの勝負運はない。ないが自作で紹介したキャバレー歌手の音源と品番と小売価格まできちんと告知する義理堅さがある。「これから楽しいことはどんどんやってかないと、もう老い先短いですからね」とカラオケ講座で語る著者は「楽しみ事は基本的に一人で行く」とも。つまり出たとこ勝負で夜の町に飛び込んでもそれなりに楽しめるほどには人好きする果報者なのだ。されど時節柄好きなスナックも風俗もバイク旅もお預けのはずの著者にはまた何か新たなシアワセを見つけてほしい。自身がプロデュースしたというスナック『秋田ぶるうす』だけでなく店舗の形にもSNSにも頼らずに。風の噂だげが頼りの大人の社交場というか伝言板というか。たとえそれが世間一般からは老い先短かしものたちの便所の落書きと称されようとも。