が、このもどかしさこそが渚ようこ

4月24日、渚ようこ『ベスト・ヒット12デラックス』(日本コロムビア)を聴く。本作は一昨年急死した渚ようこが90年代後半コロムビアに残した音源を追悼盤としてまとめたもの。数多のGSフォロワーの中で渚ようこだけが持つどこか常軌を逸した異常な執着は今回もテンコ盛り。本作3曲目の『ロスト・ラブ』は個人的には『恋のショック』より渚ようこの処女作と思える。パープル・シャドウズの今井久のギタープレイを遠まきにコピーするところがいじらしいというか確信犯というか。三味線とスチールギターのセンスが融合された独自の奏法の今井久は今も現役で若手とも積極的に対バンしているのだが。一方、7曲目の『涙の太陽』では本家 エミー・ジャクソンを相手に持ち歌なみのパンチの効いたボーカルを聴かせるが。何か往年の悪役レスラーに敬意を表して招聘しておきながらリングの上では容赦なく痛めつける市民プロレスの選手兼社長といった感。キャリアを積むごとに堂に入ってきた場末のキャバレー歌手ぶりに微妙なクエスチョンが生じてきた近年の印象も思い出すが。もはやここまで来ると昭和の昔から歌い続けるヒット曲のないロートル歌手とはどう違うのか。違わなくてもいいのか。常にどこか不機嫌そうなジャケ写の渚ようこの抱えるディレンマもその辺りにあったのでは。確かに懐古趣味ではある。が、同じ懐古趣味でも女性部下にアラレちゃん眼鏡を強要したり古女房にラムちゃんのコスプレをあてがって喜んでいる五十男とはどう違うのか。違わなくてもいいのか。混沌とする中で常に何かと対立していたとしたらその何かとはそもそも昔がそんなにいいのかというマジョリティな勢力だが。キノコホテルは昭和歌謡をオールディーズ的な解釈で廉価なヴィンテージ商品に再生産したように感ず。一方で渚ようこは今に通じる格好良さだけでなくむしろ開発途上ゆえの不憫で不細工なアングルにこそこだわっていたよう。そこには己自身のルーツミュージックに対して育ててもらったそのことにただ感謝していればそれでいいのかという継子の反乱があるのだ。ファーストアルバム『渚ようこ/アルバム第一集』の全6曲、歌詞カードは2曲のみ収録というぶっきらぼうさには目利きと好事家以外にはサービスしたくない焦りと意地もあったのでは。家族で楽しめる新宿歌舞伎町の完成予想図にもたれかかってうたた寝する様に逝ってしまった渚ようこに改めてはなむけの言葉というのは何だかもどかしい。が、このもどかしさこそが渚ようこなのかとも。