負けじと食らいつく花の応援団のような

8月9日、筋肉少女帯仏陀L』(88年 トイズファクトリー)を聴く。本作は大槻ケンヂ率いる筋肉少女帯のメジャーデビューアルバム。ジャケ写にはオーケンとキーボード担当の三柴江戸蔵のみが和服姿の老人会の姿様に囲まれて写っている。残りのメンバーは撮影時には脱退していたかレコードでは演奏していない模様。ならば演奏しているメンバーだけでチンドン楽士よろしく老人会と写ろうという心意気は私世代には理解できるが。大人の事情で何もせずともメンバー扱いという態は今時のバンド少年には逆に歓迎されそう。本作の音楽面での主導権を握る三柴江戸蔵の饒舌なピアノを散りばめたプログレッシヴロックは当時のバンド少年には高尚過ぎたような。負けじと食らいつく花の応援団の様な男性コーラスは妙にキャッチ―でこれがなければSF小説や少女漫画がらみの一つ前の世代のプログレと同化するところだった。先輩格を体育会系ノリでリスペクトしつつ改めて師事はしないオーケンのフットワークは独特。巻上公一プロデュースのオムニバスに参加するも「あいつ練習して来ない!」と怒られた昔話なぞ現在の立位置と照合すると興味深い。その後の水木一郎とのコラボに表されるようにオーケンのイイ声はアニソン歌手の声質に近い演劇性を持つ。巻舌もシャウトも程なく聴かせるが全て日本語としてはっきり聴き取れる。数多のボーカリストの日本語として半分程も聴き取れないものは聴かせる気もないというより何かをごまかしているかといえば恐らく当時の筋少の美学にそぐわぬ何かだ。レコードでは演奏していないメンバーとジャケ写で肩を組んでいたり日常では目も合わせられないプレイメイトとキャデラックの上で乳繰り合ったりそんなことをするくらいならチンドン楽士で結構という美学。そこに即反応したのが十代の男子ではなくとうのたった女子だったという点が今なお興味深い。片面シングルとしてカットされた『釈迦』を初めて聴いた際にこれは過去にオンタイムで観た人の記憶だけに残る怪奇ドラマの主題歌なのかと思い込んだが。実際はそんなイメージでオーケンが創作したオリジナルだった。この何だかあったような気もするインスタントな昭和絵巻はオーケン作品の商標として『ボヨヨンロック』や『日本印度化計画』にも息衝いている。が、それら全てを今一度懐かしむのは飲尿健康法にも似てどこか空しいのだが。それでも嚆矢たる『釈迦』だけは今も曖昧な日本のロックの正史をさ迷っている。