わが青春の一本とでも呼びたい映画を  

 

8月19日、『青春デンデケデケデケ』(92年東映)をDVDで観る。監督、大林宣彦。本作をビデオで観返すのは初めて。わが青春の一本とでも呼びたい映画を中年過ぎて観返すと制作側のお説教やごまかしに気付いて嫌になるというが。60年代末の田舎町でエレキバンドに熱中する高校生の小さなサクセスストーリー。何がサクセスかと言えば香川県の観音寺で初めて人前で演奏したエレキバンドとして歴史に名を残したという。ザ・ロッキングホースメンなるそのバンドのリーダーが主人公。バンド運営にあたってはお寺の子で地元の情報網を握るメンバーが政治力を発揮する。まずバンド結成のきっかけになる最初のメンバーと主人公の出会いは高校の軽音楽部。ハワイアン志向の部員にうんざりしていた浅野忠信演じる白井満一に林泰文演じる藤原竹良がロックをやらないかと持ちかけてギターを弾かせてみる。ガットギターでもキュンキュン泣かせる奮闘ぶりに「バンド作ろ!」「作ろ作ろ!わしもあんたの顔見た時からそう思った」と賛同する名場面。カメラはあらゆる角度から高速で切り返し台詞も異様なハイテンポで進行する。自身のその後に関わる重要人物、事件との衝突やすれ違いの真只中にある云わば青春期の揺らぎを表現したもの。「一本の映画を百人が観たら百本の映画になるんだ」と語った大林監督の意思に沿うものかどうかわからないが私は石井輝男の師匠が成瀬巳喜男であることなぞ驚くに値しない日本映画の致し方ない振り幅の広さが好きだ。この出会いの名場面だけで日本を代表するバンドもの映画の誕生を再認識したと言える。が、本作で終盤の演奏会の後に主人公がバンドゆかりの地を巡礼するくだりは本田隆一監督の『GSワンダーランド』にもあったし『GS』はトム・ハンクス監督の『すべてをあなたに』がお手本だという。商業映画も商品ならば規格に合わせて作るのは当然である。バンドものにもゴジラ憲法のような規格があるのだとしてもならばどこでとっておきのフリーハンドではみだすかが勝負所である。本作と同じ90年代はじめ、大林監督は一般公募の映像作品を品評する深夜番組にゲスト審査員として出演した。特撮ヒーローものを自作自演する素人監督に「一人で続けなよ、格好いいよ!」と賛同していた場面を思い出す。映画監督は生半可じゃ務まらないよとは決して言わなかった大林監督の残した作品を私はこれからも観続けようと思う。『青春デンデケデケデケ』この一本があればもう青春はいらない。