体制側でも反体制でも好きなものは

6月16日、岡田晋吉 著『青春ドラマ夢伝説』(ちくま文庫)を読む。本書は日本テレビの『青春とはなんだ』『太陽にほえろ!』『俺たちの旅』などの人気ドラマを手がけたプロデューサーの回想録。青春ドラマの生みの親である著者が語りかけたいのは数々のヒット作に影響された現在50代以上の視聴者たちだろう。私はかねがね青春ドラマ

は青春が始まる以前の就学児童たちの教科書だと思っていた。私が『おれは男だ!』や『飛び出せ!青春』などの作品を夢中で観ていたのは小学校低学年の頃で学校帰りの夕方四時からの再放送枠だった。著者によればそれらの作品は「高校生活をかなりカリカチュアしていて現実の高校生活とは遊離しているので、噓っぽいと、まだ高校生活を経験していない中学生以下にしか見てもらえなくなってしまっていた」という。私が中学生になるとクラスの中途半端な不良は剛達人の「先生よお」という微妙なマウントを真似して意気がっていた。再放送ではないリアルタイムの青春ドラマに影響されたのは刑事ものの『俺たちの勲章』が初めて。企画段階では『助っ人刑事』というあんまりな題名だったという『俺勲』に反応した小学生は多かった。日活系のスタッフによる本格アクションの『俺勲』は『男の心意気ドラマ』なのだそう。男の心意気とは何だろう。私から見ればそれは松田優作の投げやりなマッチョ演技のことかと。ジョン・ウェインの西部劇のようなもう流行らない男性像を引きずっている自分に醒めている姿をさらけ出すアプローチは80年代の『探偵物語』まで不思議な説得力があった。絵画の中の人物が額縁の外から話しかけるような演出は80年代には圧倒的にもてはやされたが何をきっかけに衰退したのだろう。なかにし礼が歌謡曲とは昭和そのものと定義したように時代のステージに登場した以上は必ず幕は下ろされるものなのか。著者が「私の愛する息子(?)」とまで推してきた中村雅俊を選んだ理由は「体制側の反体制の人物」たる主人公にぴったりだったからとか。「主役を演じる俳優は、体制側の人間でも困るし、完全な反体制でも困るのだ」という敏腕プロデューサーのバランス感覚にかなう青春スターはもう現れないかもしれない。青春ドラマが最も軽視された80年代初めにトーク番組で浅野温子が自分が今一番やりたいのは青春ドラマだと言い放った姿に中学生の私はときめいた。体制側でも反体制でも好きなものは好きだと言えた少年期の自分の肩を思わぬ相手にがっしり抱かれたような想いで。