本作はいつ観てもそんな良い映画

1月29日、『TATOO[刺青]あり』(82年ATG)をDVDで観る。監督、高橋伴明。本作は79年に起きた三菱銀行人質事件を素材にした犯罪ドラマ。80年代初めまで凶悪事件を脚色した実録物とも呼べる劇映画は量産されたが。事件の周辺にいる人々に配慮して今ではあまり作られなくなったのかもしれない。が、近年でも作られる実録物はいずれも極めて後味が悪い。実在の凶悪犯をモデルにした映画が心温まる良い映画では不味いだろうと言われればその通りだが。本作はいつ観てもそんな良い映画なのだ。宇崎竜童演じる主人公、竹田明夫がキャバレーのマネージャーとして働く場面。給料日には仲間たちに百円単位の借金も律儀に返す姿のもの悲しさ。宇崎竜童の自伝『バックストリート・ブルース』によれば自身も「音楽やってるんだか借金払ってるんだか分からない」自転車操業が百恵ちゃんに曲を書く頃まで続いたという。「君のそういう所が店の売り上げに繋がっとるのやな」と明夫を可愛がる店長役はポール牧。明夫にとっては人生を狂わせた魔性の女を演じるのは高橋伴明夫人の関根恵子で監督にとっては本作が勝負のメジャーデビューと野望と現実の入り混じった展開がなぜか妙に暖かいのだ。「30歳までに何かデカいことをやる」約束を渡辺美佐子演じる母親と誓う明夫だがそれが犯罪であることはお互い口に出さない。犯罪者でもいいから出世してみろというのが当時の多数派の本音だったようにも。現在同じような凶悪犯に対して男のけじめだったのだろうとは誰も思わない。が、一週間有名になれたら懲役太郎も上等だと凶行におよぶ若者には今少しの母性とエロスがあればそれはさけられたのではないか。明夫が男の面子にかけて追い求めた女とはまた別にやくざっぽいだけで充分魅力だと離れない女友だち役を演じるのは太田あや子。そんな当て馬的な準ヒロインの方が引力がある演出が得意だったのが時代の寵児森田芳光でピンク映画時代の高橋伴明とはライバル関係。ヒロインに責任取るか準ヒロインに責任取るか選ぶだけなら自由だがヒロインに責任取ると言うだけ言ってしまう方が男らしいと私は思う。「男らしいってわかるかい」という問いかけが本作のテーマなのではないか。「女に働かせて遊んでる男は最低」と断言しながらもDVにおよびヒモ生活に甘んじている主人公。「笑えるのか?俺を、」という宣伝コピーが忘れられない本作はキネマ旬報ベストテン第6位。結構な数の最低人に拍手で迎えられてしまった。