今年もやむにやまれず歌ってしまった

4月29日、狭山稲荷山公園にてハイドパーク・ミュージック・フェスティバル 2023を観る。06年以来17年ぶりに再開されたフェスの1日目は天気も入りも上々。正午過ぎに登場したサニーデイ・サービスはいい時間に思いきりやれている様子。新メンバーの大工原幹雄のドラムは圧巻だったが後に登場するトノバンズの上原ユカリ裕のプレイを観るとキャリアのあるドラマーの方が圧はなくとも響く技量を身につけているよう。もちろん今は思いきりやりたいようにやればいいのだが。長髪から坊ちゃん刈りに様変わりした曽我部恵一はほとんどパンクだったというデビュー以前のサニーデイを再構築したいのか。満足に弾けない楽器をステージで叩き壊すのと匠になっても叩き壊すのとはインプレッションが違う。ともかく今はこれでいいのだという気迫を感じた。続くパスカルズは真逆の脱力ぶり。総勢13人の大所帯ながら主宰者のロケット・マツは幽霊アパートの無責任な管理人といっった佇まい。弦楽奏とホーンとピアニカと珍妙な手作り楽器による「独自なサウンド」は海外で人気というのはわかる気が。国内でやるとエコロジーとか誰も置いていかない社会づくりとか文化財団的な受け皿しか用意されないのでは。最近は映画音楽も手がけるというパスカルズのようなバンドこそNHKの朝ドラの主題歌を担当してほしいと夢想するもそれは「普通」じゃないかとも。海のものとも山のものとも判断しかねる音楽性の立ち位置はむずかしいのだが。似たようなことを散々言われているうちにスポットライトをすり抜けていったたまのメンバーが二人もいるのだった。午後三時になりトノバンズ。加藤和彦なら拒否しただろう追悼ライブがきたやまおさむの「もういいだろう」という鶴の一声で断行された。『あの素晴らしい愛をもう一度』を06年に合唱した時もトノバンの複雑そうな表情に気づいても歌わずにいられなかった。今年もやむにやまれず歌ってしまったが。常に最先端のことしかやりたくないし懐メロ歌手なんてまっぴらというトノバンの遺志をまったく継がないトリビュートにこの日一番感動した。きたやまおさむにしてみればケンカ別れに終わったはしだのりひこに一切触れずに自身にとっては次世代の坂崎幸之助佐野史郎に清々しくバトンを渡すのはヒーローショーの悪役を意識した「演技」なのかもしれない。が、今日は自分がメフィストになっても届けたいものがあればこそだとしたら。トノバンにしてみればもう金輪際盟友でも弟子でもないトノバンズのファンになるのは私の勝手。