その辺の大友チルドレンより一皮も

2月25日、うめざわしゅん 著『うめざわしゅん作品集成 パンティストッキングのような空の下』(太田出版)を読む。″不世出の天才、うめざわしゅん。2001年〜 2015年にわたる傑作読み切りを9編収録″と記された帯文には漫画界のみならずカンパニー松尾末井昭高橋源一郎など錚々たる顔ぶれが賛辞を寄せており、この漫画家の名前すら知らなかった私も表紙絵だけでいかにも刺激的な内容を期待してしまった。その期待は決して裏切られなかったのだが。78年生まれの著書が01年に23歳で発表した収録作品『学級崩壊』をリアルタイムで読んでいたら不世出の天才に果たして気づいただろうか。『学級崩壊』は大友克洋の『童夢』 の俗悪学園ドラマ版といった内容で作画も収録作品中最もラフな走り書き風。8ミリ映画青年がわざとカメラをブンブン振り回して天変地異をフィルムに焼き付けたつもりになっているような感。であるが01年にして大友漫画にやられてそんなつもりになっている23歳にひとまずゴーサインを出した当時の編集者は今頃鼻が高いのでは。その後の15年間に作画も構成も倍々でレベルアップした上に詩情あふれる台詞も深味を増し続けているのだから。表題作の『パンティストッキングのような空の下』には確か三上寛の歌詞にそんなものがあったかと66年生まれの私がようやく思い出すくらいに著書の老け趣味というか古典主義は重厚。後書きによれば好きな作家は福田恆存というから今現在著書とディスカッションしなければならない若い編集者には難敵かと。『渡辺くんのいる風景』の中で街のゴロツキに成長していた幼なじみの渡辺くんが主人公の無色透明な売笑婦に語る台詞がよい。「でもな それは ちゃうんや 言葉なんて ただのインチキ手品や」「言葉なんてな 犬がムリヤリ 着せられとる服 みたいなもんや」「なんぼ しゃべくっても 誰とも繋がらへんで」には70年代のATG映画を観ているようなトリップ感覚があるが決して「悪酔い」はしない。私が復活日活ロマンポルノにまだ後ずさりしているのはどうも「悪酔い」が心配されるからである。その辺の貧困カップルの交わす愚痴と性愛にきょう日金を払ってしまっては己の往生際の悪さに涙も出ないからである。うめざわしゅんの描く行き場のない男女の対話には言葉のもどかしさから頭ひとつでも抜きん出ようとする健気な逞しさがある。その辺の大友チルドレンより一皮も二皮も剥けてしまった感の「不世出の天才、うめざわしゅん」に今ようやく私も出会った。