2022-01-01から1年間の記事一覧

酒も煙草も知らない育ち盛りの味覚と

11月2日、西村賢太 著『瓦礫の死角』(講談社文庫)を読む。今年2月に急死した著者の追悼企画のひとつ。表題作の『瓦礫の死角』では中卒の身で一人暮らしを始めるもすぐに職も家も失い母親のアパートに転がり込む主人公、北町貫太のひきこもりの暴君振りが酷…

ニュース映画の決定的瞬間の様な生な

10月30日、『ションベン・ライダー』(83年キティ・フィルム)をDVDで観る。監督 相米慎二。83年の5月にかつて相米が助監督を務めた寺山修司が亡くなっているが本作の意図的な不格好さは寺山演劇に通じるものが。三時間半の作品を二時間にカットして話の繋が…

この路線にもっとこだわっていれば

10月28日、チャクラの『チャクラ+5』(ウルトラ・ヴァイヴ)を聴く。本作はチャクラが80年に発表したデビューアルバム『チャクラ』に未発表ライブ音源を9曲付けて収録したもの。ジャケ写に写るメンバーの衣装は人民服をアレンジした奇妙な恰好でこれはプロ…

改めて押入れの奥に寝かせておきたい

10月27日、みうらじゅん 著『改訂版 ボクとカエルと校庭で』(青林堂工藝舎)を読む。本書は漫画家、みうらじゅんが87年から88年まで『ガロ』を中心に発表してきた作品を収録したもの。主人公のカエルのマイケルはのちにローリング・ストーンズの来日Tシャツ…

80年代の若者版『男はつらいよ』とも

6月15日、福谷たかし 著『レジェンド どくだみ荘伝説』(青林工藝舎)を読む。本作は漫画家、福谷たかしが79年から94年まで『週刊漫画Times』に連載した大ヒット作品『独身アパートどくだみ荘』の再編集版。『どくだみ荘』は主人公、堀ヨシオが日雇い仕…

芸術家に成ろうとも若い物は苦いのだ

6月22日、カルメン・マキ『アダムとイヴ』(69年 Sony Music Records)を聴く。惹句には「現代のイヴ、カルメン・マキが歌う愛の孤独」「4人の詩人と8人の作曲家による10の歌」とある。69年2月に『時には母のない子のように』がオリコン…

ならば建前なしに何が残るかという

6月19日、『毛の生えた拳銃』(68年 若松プロダクション)をDVDで観る。監督 大和屋竺。本作は『ルパン三世』の脚本家として知られる大和屋竺が若松プロの三百万映画シリーズと呼ばれた低予算映画のメガホンを取った監督第三作。本作がきっかけで『ルパン三…

体制側でも反体制でも好きなものは

6月16日、岡田晋吉 著『青春ドラマ夢伝説』(ちくま文庫)を読む。本書は日本テレビの『青春とはなんだ』『太陽にほえろ!』『俺たちの旅』などの人気ドラマを手がけたプロデューサーの回想録。青春ドラマの生みの親である著者が語りかけたいのは数々のヒッ…

あとは日常のたわいない戯事なのだ

4月3日、高橋ヨシキ 著『暗黒ディズニー入門』を読む。本書はアートディレクターの高橋ヨシキがディズニー作品の光と闇について自身は「悪魔主義者」に武装した上で臆することなく解説したもの。ディズニー作品を宗教や人種差別の面から裏読みした批判が集…

文句があるなら本作の中の巻上公一に

3月28日、『風の歌を聴け』(81年ATG)を観る。監督、大森一樹。大森一樹は村上春樹の中学の後輩で実家も隣組であることから映画化権を素早く獲得できたそうだが。村上春樹の初期の短編小説を勝手に映画化したものは80年代半ばの自主映画界には数知れずある…

エレキギター1本で念仏を唱える様な

3月26日、宮沢正一『人中間』(いぬん堂)を聴く。82年にスマート・ルッキンなる自主レーベルより発表された宮沢正一のソロアルバム。プロデュースは遠藤ミチロウ。宮沢正一は当初ミチロウと同じく生ギター1本で歌うソロ歌手だったが後にバンド志向になりラ…

便所の落書きに想像力の泉を見るよう

3月20日、辰巳ヨシヒロ 著『[増補版]TATSUMI』(青林工藝舎)を読む。本作は漫画家、辰巳ヨシヒロが70年から79年までに発表した短編漫画、9作品を収録したもので5作品は11年に海外でアニメ映画化された。著者は50年代の貸本漫画ブームからキャリアを…

本書はその花束の10年分の押し花

1月15日、宮沢章夫 著『時間のかかる読書』(河出文庫)を読む。本書は劇作家の宮沢章夫が『機械』という1930年に横光利一が発表した小説を11年以上かけて深読みし続けた読書レポート。雑誌『一冊の本』(朝日新聞出版)に長期連載されたもの。『機械』とい…

今聴き返してどこか問題がある感じは

1月12日、『唐十郎 四角いジャングルで唄う』(キングレコード)を聴く。本作は73年2月8日に後楽園ホールにて行われた状況劇場のリサイタルをCD化したもの。同年レコード化された本作の復刻はあり得ないと言われていたが。今聴き返してどこか問題がある感じ…

冗談の中に本気が含まれていいた?! 

1月9日、『ファイヤーマン 第12話 地球はロボットの墓場』(73年 円谷プロ)をDVDで観る。監督、大木淳。脚本、岸田森。岸田森は本作でSAF隊員、水島役も演じている。ゴールデン枠のドラマを一人の俳優が自作自演する機会は当時も今も滅多になく、勝新太郎の…

そして私もまた読後、暫くの間は虚脱

12月21日、大山海 著『奈良へ』(ハイド社)を読む。15年に第17回アックスマンが新人賞に入選した漫画家、大山海の2冊目の単行本である本作の帯文には「色即是空の大ヒット!3刷出来!!」とある。デビュー前から注目していたという作家、町田康の解説にも「こ…