溢れる不安と不満をぶつけていいのは

12月12日、サレンダー橋本 著『恥をかくのが死ぬほど怖いんだ。』(小学館)を読む。本書はWebメディア『オモコロ』に14年7月から12月まで更新された著者の漫画を初めて単行本化したもの。帯文に“えっ…このマンガ、サブカルをバカにしてる!?許せません!渋谷直角氏イチ押し(?)”なるコメントが寄せられているように現行の若者文化と若者のありかたに挑発的な問題作。オープニングの『全員くたばれ大学生!〜でも本当はうらやましい〜』だけでも炸裂感は充分。地方から上京するもキャンパスライフを謳歌できず友達も恋人もできず孤独にトイレでおにぎりを食べる主人公ケン。やおら便器の中から現れるトイレの神様になぜ同世代との交流を避けるのかと問われると「大学生はクソだから!!嫌なんだよ!!」と激昂するケン。ぬるいことでケラケラ笑うし田舎出同士群れて同じ髪型に同じ服装のクソ共と一緒にされてはたまらないというケンの魂の叫びに「お前ちょっと自意識ヤバイな〜」と忠告するトイレ神。「何がしたいんだ お前は?」と改めて問いただすトイ神に「僕だって このままじゃ駄目なことぐらい わかってるよ…でも!ダメなんだ!! 恥をかくのが死ぬほど怖いんだ!!」と訴えるケン。僕だって人並みに青春を楽しみたいけど今更遅いよねと肩を落とすケンに「そうだな 手遅れだし 実家に帰れ」と案外クールなトイ神に「そこは何とかうまいこと諭してくれよ」と食い下がるケン。新人らしからぬクイックリーで巧みな構成にはまだ衝撃の結末がある。トイ神の神通力によってうんこ一塊分の「お前の余分な自意識を」すべて吸い取ってもらったケン。憧れのキャンパスライフの予告篇を観てみるかとトイ神に誘われるままケンが目の当たりにした自身の未来予想図とは。それは渋谷駅前にサッカーのユニフォーム姿で集結し警官隊ともみ合う悪質なサポーター群に「ニッポン!ニッポン!」と半狂乱で溶け込む自分の馬鹿面だった。「この未来と今ならどっちが良いか?」とトイ神にたずねられたケンはヤングアメリカンのごとく無言で皆目お手上げさとゼスチュア。著者のサレンダー橋本は88年生まれの27歳。大卒者にもまともな職がなくなり始めたといわれる世代より更に一回り若い。溢れる不安と不満をぶつけていいのは若くて意味もなく元気な連中という照準は間違ってはいないと思う。むしろ最初の一撃はこれから先自分の作品のフォロワーになってもらうべき若年層に容赦もなく向けた器量が不敵にまぶしいデビュー戦であった。