お好きな世界に迷い込んだのである

 食べていく為だけの仕事がタテ込んでしまいその晩は泥のようにグッタリとコタツ寝。当然痛飲していたので激しい宿酔いである。何やら股間が湿っぽいのはひょっとしてと考えるより自分に嫌気がさして表に飛び出していた。ふと気付けば新宿で沖縄そばをズルズルすすっていた。またふと気付けば新宿ニューアートでストリップを鑑賞していた。10年前の劇団時代を思い出していたのである。ゴールデン街の中にあったスペースデンという芝居小屋で公演を打っていた頃を。当時舞台の準備が終わってリハもどうにか終わった帰り道のこと。「どうだ景気付けにニューアートは。マキはこういう所入ったこともねえだろ」と先輩達にこずかれ照れていたあの頃の私は二十代の半ばであった。あれから10年。ストリップ劇場には未だ足を踏み入れたことがない。踏み入れますか。もう冒険してもいい頃。冒険しても始まらない頃と言える。そう思うと逆に楽、気持ち的に。

 ああ楽だ楽だか何か呟きながら劇場内へ。引田天功のようなオリエンタルな衣裳を身に着けた踊り娘が舞っている。思ったより高レベルなダンス。クラシックバレエなどかじってないと上がりっこないところまで白く長い脚がスウーッと天井に向けて伸びていく。拍手が起こる。わかりますね。10分程のステージが終了するとポラロイド写真を一枚五百円で踊り娘が手売りする。買う人は必ず買うが買わない人は絶対買わない。私は初参者なので今回はやめておいた。そんな舞台が総勢6名の踊り娘によって展開すると2時間強はあっという間である。一人だけルックスもセンスも他の女の子とは少しだけ違ってる踊り娘がいた。小島麻由美の「甘い恋」をBGMにジャズダンス風の軽やかなステップを見せてくれた。かぶりつきの親父達は小島麻由美知らないだろう。でもノリノリでクラップというより手拍子。彼女はきっと小島麻由美のファロアーだ。

 世間的な知名度は今イチなれど好きな人間はメッチャクチャに好きだと主張する小島麻由美。いつかはミリオンヒットかっ飛ばして欲しい。それまであんたの曲で踊り続けるくらいの熱い魂が。熱い魂の中心部から赤い紙ヒモが。女だ。宿酔いの熱か当たり前と不可思議がクロスオーバーしている。一体私はこんな所で何をしているのだろう。小島麻由美を聴いている。小島麻由美をフォローしている。フォロミーとは叫んでないよと小島が言ってもね。フォローする。もうこうなったら。ありがとう新宿ニューアート。将来のないはずの私の将来の夢がまたひとつ増えた。ストリップショーの演出家になりたい。小島麻由美で踊りたいと主張する彼女には「甘い恋」よりも「先生のお気に入り」を。コントのガキのような衣裳で。この娘は少し頭がゆるいのかと思わせるクルクルパーなステップで。尻にはしりと書いておくべき。私が書くが。マジクインキ本人に買いに行かせる。アドホックまで走らせる。マッキー先生にちなんでマッキー極太にしました。でも先生極細でしたっけか何かギャグってもニヤリとも返さない。私の演出はキビシイのだ。皆泣かされるんだってね。