本作に登場する東京名所も正しく68年

1月25日、『泣いてたまるか 東京流れ者』をDVDで観る。『泣いてたまるか』はTBS系で66年から68年まで放映された「根性ドラマ」と当時呼ばれた作品。渥美清演じる主人公が活躍する一話完結物で本作『東京流れ者』の脚本は内田栄一。『妹』、『バージン・ブルース』などの映画を手がけ演劇でも金子正次や田口トモロヲを門下に活動した70年代の不良性感度を肉付けした立役者。本作の渥美清もシリーズ中もっともストリート風の軍用コートに犬の首輪と貴重品を鎖でつないだ不良ぶり。迷彩服や革ジャン同様この類を若者が普段着にする前にテキ屋などが着るというワンクッションがあったと気づく。その主人公がばったり出会った迷子の少年に東京中を振り回されたあげく虎の子の五十万まですられても気づかないという間抜けなエピソードを当時の流行歌が飾る。『男ブルース』、『世界の国からこんにちは』、『恋のフーガ』など続々と流れるヒット曲に合わせて会話のオチがついたりコケたりする演出は後のMTVの様。もちろん『東京流れ者』もラストで廃品回収業者になった主人公がビル荒らしに間違えられて警官隊に追われる場面に使われているがどの選曲も秀逸。本来ドラマの主題歌はプロレスの入場テーマの様なものでは。メインエベンター級の選曲で前座級のレスラーが入場してはひどく興醒めである。が、バブル期には『悲しみのアンジー』や『ホテルカリフォルニア』を主題歌にした強引な演出のドラマもあったことは忘れられている。本作に登場する良家の不良少年が主人公を振り回す東京名所は新宿から羽田から銀座。現在では下北沢も二子玉川も全国区の東京名所だが。東京都民でもそんな街があるのかと疑うほどマイナーな地区をあえて舞台にする演出の始まりは『男はつらいよ』なのだ。本作にも松村達雄太宰久雄が登場するし同シリーズには山田洋次脚本の『男はつらい』もある。主人公と少年が束の間の友情を温める羽田空港のレストランの場面。窓の外のベランダにてあれをごらんなどと指差す家族連れの動きがどうもコント地味てわざとらしい。よく見ればこの場面はスタジオ撮りのセットだ。塚本晋也監督の最新作『ほかげ』では焼け野原を再現する代わりに焼け残りの居酒屋を細部まで作り込む職人技が外の様子も観客に想像させることに成功していたことを思い出す。本作に登場する東京名所も正しく68年の東京に間違いないのだが。表面的には明るく健康なドタバタ喜劇の奥底に時代の闇と人の心の闇がちらちらと垣間見えるシリーズのキラー球。