街かどテレビは止められないんである

11月4日、テアトル新宿にて『こまどり姉妹がやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ!』を観る。製作アルタミラピクチャーズ。監督片岡英子。モーニングショーのみの公開だが案外盛況であった。映像専門学校生のような若者たちが団体で来ていた。講師か卒業生がスタッフに加わっているのかもしれない。そういう連中同志がわざわざ人の頭越しに身内の会話を始めやしないかとヒヤヒヤ。ひと昔前の小劇場にありがちな迷惑行為はなかった。
本作はタイトル通りこまどり姉妹ドキュメンタリー映画である。昭和30年代に人気双子歌手だったこまどり姉妹のその後の転落の半生を貴重な映像と当人たちの語りで描く71分。最近の映画にしては短いが本作のこのあっさり感は悪くない。ファンに襲われて大ケガをした事件や事務所のスタッフの使い込みで借金を抱える顛末や闘病生活とドサ回りの苦労を語るこまどり姉妹の表情は当然明るくはない。明るくはないが楽屋でのカジュアル着がギャルみたいでおかしい。ステージ上でのおしゃべりでも「あんまり近くで観ないでくださいね、厚化粧でびっくりしちゃうから」などと若づくりは最早ネタらしい。
今の街頭ミュージシャンのような生活をしていた父親についていたこまどり姉妹がお客のリクエストで強引に歌わされたのがふたりのデビューのきっかけである。通りすがりの人々の前で歌って少しばかりの金を拾いあつめていた少女時代。そして現在のステージでもこまどり姉妹のふたりには観客から千円札のレイが差し出される。こまどり姉妹はそれを実に自然に受け取る。普通キャリア50年もの大御所が客席から裸の金をひょいと差し出されてそれを受け取ったら相当見苦しいはずだが。こまどり姉妹は人生の始まりからそうした生活をしているから見苦しくはない。生きていくため、今日食べていくために歌ってきたこまどり姉妹だけが持つぼろぼろのオーラがそうさせているのだ。
名曲『涙のラーメン』をバックに道産娘ラーメンを仲良くすする現在のこまどり姉妹の姿には嫌でも胸が熱くなる。お昼のワイドショー的にそうした人生泣き笑い劇を追求すればすっかりその類の映画になってしまうが本作は一歩踏みとどまっている感が。尺の短さも編集のテンポもウェットになりかけたところでするりと抜けていくような。片岡英子監督にとって母親世代のこまどり姉妹の人生の暗黒は興味本位にいじれるものではないだろう。そのデリケートな気配りが本作では成功していると思う。モーニングショーにふさわしい後味のさっぱり感に拍手を送りたくなる好企画だ。