それじゃほとんどデモテープかと

10月28日、若松孝二傑作選『腹貸し女/音楽:ジャックス』を聴く。68年に公開された若松プロ作品の同名映画のサウンドトラックで音楽をジャックスが担当したもの。ジャックスの評判を聞いた若松監督が目黒スタジオにメンバーを呼び集め普段の練習通りに演奏してもらった持ち曲とGSのカバーを「ずっとテープ廻しっぱなしで後で向こうで適当に使ったんじゃないかな」とメンバーが語るようにただ録ったもの。それじゃほとんどデモテープかと思ったが音質はさほど悪くない。いや悪いのか。当時の録音技術がアマチュアバンドが練習スタジオで録ったものとメジャーなレコード会社で録ったものとメジャーなレコード会社で録ったものをくらべてもさほど差はなかったのだ。十日で一割の高利貸しから金借りて(映画製作を)やってましたよという当時を振り返っての若松監督の発言が思い出される。プロが作ってもアマが作っても完成度はさほど変わらないならばアマが勝手に作った作品の方が面白そうだ。と思うのは自身が何か作りたくてうずうずしていた若者層だけで当時の観客の大半は現在ラピュタのモーニングショーでかかる大映作品などがちゃんとした映画で若松プロの映画には「………」といった反応だったのでは。それを言うなら「キャタピラー」だって未だに「………」だろうという気もする。でもそれでいいのだという想いを奮い立たせたくなって本作を聴いているのだが。水橋春夫のギターってやっぱりいいなと。当時の貧弱な機材だと余計ヒリヒリした感触が伝わってくるのかも。それは本当にエレクトリックギターなのかとはちょっと気の毒で聞けない泣きべそぶり。泣きのギターだ。レコ発目前には空回りだよとバンドを飛び出してしまったエピソードもうなずけるような。『マリアンヌ』の歌詞に“白い両手で俺を抱きしめ”というくだりがあるが本作でもメジャー盤同様早川義夫は“しりょい両手で俺を抱きしめ”とはっきり歌っている。カップスの『愛する君に』の中の“両手に歌声を”が“りょうとる歌声を”とはっきり歌われていることと当時フィードバックがあったのかどうか。日本語を英語っぽくふやかして歌う歌謡ロックの幼虫期がこの時代に息づいていたような。ちゃんと歌詞カードを通り歌いなさいと叱る作詞家などついていなかったジャックスはやりたい放題という点では同じかもしれないが。同じなわけがないかとも。『ロック画報』のジャックス特集が次号予告までこぎつけても当月になれば和田アキ子特集に変更されていたように。何がどう空回りなのか未だうずうずと。