しかしアルタミラ作品のそれは大人も

5月21日、テアトル新宿にて『オース!バタヤン』(13年アルタミラピクチャーズ)を観る。監督、田村孟太雲。先月25日に他界した歌手、田端義夫を05年の大阪公演から追いかけた記録映画である。メインは浜村淳の名司会と共に進行する翌年のステージの模様。合間にアルタミラ作品ならではのたまらんお宝映像が挿入される。まだ家庭用ビデオが普及していない時代のTV出演の様子やライブ映像などがここぞというタイミングで映し出される高揚感。高田渡ゴールデンカップスこまどり姉妹らを取り上げてきたアルタミラ作品の監督はそれぞれ違ってもこの高揚感は共通する。まさに「待ってました!」といった間合い。中学男子が自身の選曲センスに全身全霊をこめて夜な夜な制作するありがた迷惑なマイテープに近いものが。しかしアルタミラ作品のそれは大人も大人の全身全霊だけあって必ずありがたい。バタヤンのステージング同様に観客目線に立ったおもてなしの精神がある。バタヤンの母校である鶴橋の小学校の体育館でのステージ。いつものように客席に降りていくバタヤンがちょっと言うことあったわと女性スタッフに声をかける。何ですと問い返すその女性スタッフに自身のマイクを持っててくれとバタヤン。持ってますよと白々と受け流すと俺のマイクの握り心地はどやと嬉しそうに下ネタをかますが。そんなやりとりは過去何万回と付き合わされたであろう女性スタッフの冷静さもおかしい。もちろん観客は大爆笑である。が、バタヤンはこのとき87歳。観客の平均年齢も70歳近いだろう。男女のことなどもうどうでもいいはずの世代が下ネタで大盛り上がりするその様子に「歌謡ショー」真髄を見たよう。よろめき演歌や艶唄というものは男女のことが始まるカラダとすっかり終わったカラダにこそ染みわたるものなのだ。67歳で愛人騒動を起こしたバタヤンがリップサービスとはいえ94歳までエロ事師のイメージを守り続けたのもそんな歌謡のメカニズムを晩年から強く感じとっていたからだろう。パンフの号外に寄せられた追悼文の中に“こんなおもしろいおっちゃんは後にも先にも出てこないと思います”と応えていたのは映画パーソナリティの襟川クロである。また濃厚な。童謡のカバーでも高い評価のあったバタヤンの少年の心は幼き日に芸者に身売りする姉を見送ったときの深い悲しみを忘れてはいない。が、一方では襟川クロに代表される濃厚で甘美な玄人女性に反応しないはずもないのだ。そうした二面性こそが「男の純情」なのだと痛感する作品。観る健康食品かと。