同情しちゃって大絶賛なんである

 シネ・リーブル池袋メトロポリタンプラザ8階にある私なぞから見れば都内有数のお洒落でハイソな映画館である。そんなハイソな小屋で先日タナダユキ監督の「モル」を観た。

 今作は第23回ぴあフィルフェスティバル/DFFアワード2001グランプリとブリリアント賞を受賞している。ジャーナリストの筑紫哲也も推したし、他にも映画プロデューサーの森昌行、漫画家の柏木ハルコに俳優の利重剛などが評価している話題の作品である。であるが内容はビデオ撮影によるタナダユキ本人主演の全編オールゲリラ撮りお友達総出演の極貧インディーズムービーである。そうした作品がシネ・リーブルでかかっていて結構な盛況であるところにまず時代を感じた。まさに上がってんの下がってんのである。

 明日の邦画界を背負うだろうと一部どころじゃなくささやかれる注目の新人監督は会場の片隅にて一部五百円の手作りパンフを手売りしていた。まるでキャバレー巡りの売れない演歌歌手である。そんな物本人からいかがでしょうかと頼まれりゃ買ってしまうだろう。タナダ監督には二度と受け付けに普段着で立って欲しくない。机の前に模造紙で「タナダ監督にパンフレットを作らせてあげようの会」などとマジック書きした物を貼ってペコペコ頭を下げて欲しくないのだ。本当に貧乏なんだようとスゴまれれば返す言葉も無いが、今作は決して心まで貧乏してはいない快作なんである。

 そろそろケツに火がついた感の25才の無名モデルがこれでアカンかったら実家で見合い結婚でもくらいの意気込みでドラマのオーディションに向かう。が、彼女はここ最近街に出れば必ずビルの上から今にも飛び降りそうな見知らぬ男たちと目が合い発熱してブッ倒れるという奇妙な現象に度々悩まされていた。そしてそれは必ず生理期間に起き、その日も運悪く生理のド真ン中だった。一生一度のラストチャンスの日にもやはり自殺者は現われたが、彼女はそこで夢をかなぐり捨て現実に向き合うのだ。つまりオーディションはもう放っといてこの自殺者にとことん付き合う事にしたのだ。案の定彼女にフラれたくらいのショボい理由を話した自殺者に自分の半生を洗いざらい語り倒した彼女の胸の内は意外にも晴れていた。

「生理とか女とかどうでもええねん……どうやったら上手に人のこと好きになれんのやろな」という台詞をささやく彼女と自殺者が夕景のビルの屋上で大の字になるクライマックスにはジンと来た。同じ感覚を若松考二の「いけいけ二度目の処女」からも味わった気がするのである。タナダユキはやはり今後とも要注意人物。