私は泣いていますかって言うんである

 テアトル新宿にて大谷健太郎監督作品「とらばいゆ」を見た。出演は瀬戸朝香塚本晋也市川実日子村上淳

 瀬戸と塚本は同棲生活から実験的に結婚に踏み切ったばかりの友達夫婦。市川と村上は元カレの影に苛々しながら関係を保つできたて同棲カップル。瀬戸と市川は実の姉妹でB級リーグの女流棋士である。性格は理論派の姉に行動派の妹と正反対で男の趣味もまた正反対である。地道な会社員と様子見で結婚した姉と、三ヶ月に一人のペースで男を替えて相手の身分には全くこだわらない妹。今の同居人もホームレス同然の売れないミュージシャンである。

 この種のダメ人間にははまり役の村上淳が、プライベートで広末涼子にストーカーされていたという噂は本当かもしれない。そう納得させるくらいのグニャグニャモラトリアムで取り柄と言えばルックスと飯を作るのが上手いだけという、ただちに食われるひ弱な動物ぶりを好演している。

 物語もいたってシンプル。将棋の世界ではA級からB級に格下げをくらってC級入りも見えてきた姉と、逆にB級からA級入りも現実化してきた絶好調の妹の身内バトルである。会社員と結婚して将来もちゃんと考えている守りの姉が急落中で、学生気分で男遊びを繰り返すちゃらんぽらんな妹が急上昇中なのだから姉のほうは面白くない。が、更に面白くないことに自分の亭主もちゃらんぽらんな妹に甘いのである。要するにカワイイから許しちゃう親父心からなのだが、これも姉としては自分にはもうそうしたカワイイ女のコだけの利権は与えられていないんかいとムクれまくるのである。

 瀬戸朝香もいつの間にか王道女優である。分別盛りのパキッとしたヒロインを貫禄たっぷりに演じている。

 妹役の市川実日子はモデル出身で映画は今作が初めてではないが不安定。表情の硬さと台詞の棒読み振りも勝気でやりたいことは他人がどう思ってもやる女のコ役には逆に生きてるが。顔はつのだじろうの漫画のキャラクターに似ている。

姉妹の間の火花を素手で払いのける災難役の実直な亭主、塚本晋也は実際まだ若いのだが安定期の中年サラリーマンがやけにハマる。中年晋也である。

 晋也が姉妹の仲と妹カップルの中をフォローしている間に姉、つまり嫁とはギクシャクしたがインドネシアに飛ばされることになり良い冷却期間ができたことで夫婦仲も一安心。

 とまァそれだけっちゃそれだけのドラマをオリーブや散歩の達人的な古くはおいしい生活的なこじゃれた空間デザインと小物たちがいろどりを添えていて悪くない。いい塩梅の小品だがこのご時世にお気楽極楽過ぎかとも。