エアー、手前ぇこの野郎ってんである

 人気タレントの優香さんがはじめての絵本を出版されました。記念イベントの開場に現われた優香さんは感激の余り思わず涙ぐむ一幕もあり―― という内容のワイドショーの芸能情報に私は心中複雑になったのである。

 私は優香のファンの一人であるが、写真集やビデオの類は一切入手していない。何だいケチと優香サイドの人々には思われるだろうが、優香はホッとするんじゃなかろうかと想像するからである。その位今の優香はオーバーワーク状態にある。この上作家デビューまではたして書き物も結構イケルと評価されたらどうなってしまうのだろう。上手いこと表舞台からリタイアして女流作家に転校できるだろうか、高橋洋子みたく。そうなればいいがなあと楽観視することにして小学館文庫の絵本『エアー』優香をついには入手してしまった。

 内容は犬のエアーとおねえちゃんの心の交流をエアー側から描いた優香流人生哲学である。エアーとは何ぞや。それは空気である。空気とはかけがえのない物である。お金では買えない生きるもの全ての共有財産である。それがあなたでおねえちゃんはあなたとずーっといっしょだよ、お約束だよと感動のエンディングまでつい書いてしまったが心暖まる秀作である。エアーという名のミニダックスを実際優香は大切に可愛がっていて、巻末には本文にもあるようにいいコでお留守番していたエアーのお鼻にチュッしている優香の写真がある。そのようにして小動物を愛でながら日々をサバイヴする業種の方々とアイドル稼業は似通っている。が、優香は優香を今日明日に辞めて実家でお見合いでもという訳にはいかないんである。だから苦しいんである。幼少のみぎりから芸能ママに育てられた芸能っ子でもない点が更に優香を苦しめるんである。つまりアイドル稼業における充足感の得にくさである。紅白歌合戦に出場できなかったと泣き崩れしばし行方をくらましたりする連中の気持ちが優香にはわからないのである。この先何か名誉な賞を芸能の世界で与えられて「今の喜びを誰に伝えたいですか」と問われても、んなもの誰にも伝えたかないんである。それよか早く家に帰ってエアーと入浴したりベッドでじゃれ合っていたいんである。エアー、手前ぇこの野郎。しかし優香にもこれでやっと物を創ることで得る充足感の断片は手に入れられたのではないか。絵本作家、優香のこれからを見守っていきたい私である。

 私は優香のファンである。優香に現在代表されるような女性像に弱いんである。青年期、思春期に遡ればそれはタムリン・トミタであり、八城夏子であり、やはり高橋洋子であろうか。ちょっと物憂げでドライに見えても実は人情家である文学好きの不良少女。そんなイメージは優香の母親世代に持てはやされたものである。優香にあるのはそうしたフーテン少女のエッセンスがほんの少しばかりだ。それでもすっかり反応してしまう世のエロ親父達の私もその一人であろう。限りあるエロ資源を大切に。私はこの事だけは後の世代にも伝え続けたいんである。優香の大好物はラーメンライスである。そういうことを公言するから私のようなエロ親父が一人勝手に藤田敏八の世界を重ねるんである。けれど当の優香がそうした70年代風フーテン路線に意識的になった時点で夢は一気に醒めるのだろう。男のロマンなんて犬のエサ代にもならなくて申し訳ない次第である。優香と愛犬エアーの蜜月が少しでも永く続くように皆も祈ろうではないか。お約束だよ。