夕刊の方角と思って欲しいんである

 歩きながら煙草を吸う若い女性が増えていると思う。私などはそうした女性一般に対して思うのはこの女は自分のためだけに煙草を吸っているなということだ。つまり格好つける道具ではなく、あくまでニコチンを補給せよという身体のシグナルに応じてスパスパやっているなと。

 あまり見られた姿ではない。が、歩き煙草さえしていなければ充分エレガントなのにと思わせる女性はそこにはいない。だったら吸ってやるということか、女たちよ!私なぞは煙草は格好つける道具であってもらいたいと思う。ヤニが切れたけんのと言わんばかりに所かまわずスパスパやるようになったら人間お終いだと内心思っている。煙草は格好つける道具である。ニヒルに吸ってもらいたい。天知茂のように。それにしても何故ここに来て女の歩き煙草が急増したのだろう。それまでわきまえていたものがもうどう思われようと知るかと開き直らせるような出来事が近年あったか。キムタクの結婚とか。アニータ大暴れとか。いずれにせよ気取ってみせても始まらない位置付けをされているのは私のほうである。火がこっちを向いているじゃないか危ないじゃないかないかなどと注意するべきだろうか。そっちが気をつけりゃいいんだよか何かレディース時代の顔に戻って食いつかれてしまうのだろうか。私も劇団時代の顔に戻ってコメツキバッタ化してしまうのだろうか。昔はよく謝っていた。

 今の女性は煙草の吸い方がどうもエレガントじゃないのよねなどと両手を頭の後ろで組んでクネクネしてみても始まらない。だいたい昔の女性の方が煙草を吸う姿もキマってたとも思えない。桃井かおりはキマってたか。鈴木いづみは確かにキマっていたが今になって煙草を吸う女性の鏡としてだけスポットを当てて良い存在ではないし。正直煙草を吸う姿にグッきたのは浅川マキが最初で最後だと感ず。ピースライトのCFやってくれないかなあと勝手に思ってしまう。ロケ地は文芸座ル・ピリエ。しかし今思えば禁煙じゃなかったのが不思議な劇場であった。浅川マキの格好良さにつられて客席もスパスパやりだすしスモークマシンの勢いで吸いさしの行方もわからないし。知らぬ間に命懸けであった。フリージャズの怖さを今頃痛感。まあ大人向けのエレガントなパンクを観に行ってるつもりだったのだ当時は。