哀しい気分でコリアンジョークである

 日比谷シャンテシネにて韓国映画ラスト・プレゼント」を観た。昨今ではハードポルノ路線の作品が人気という韓国映画市場においては珍しい直球ド真ン中の人情悲喜劇である。

 売れないコメディアンと不治の病で死に行く妻の残された日々をリズミカルに描いた新人監督はまだ35才のオ・ギファン。主人公の無名芸人をイ・ジョンジェが、その妻をイ・ヨンエがそれぞれ演じる。高校時代からお笑いスターを目指しコンビで活動するヨンギとチョルス。ヨンギ&チョルスの名で今の所は苦手なバラエティーの前説やショーパブの仕事にしがみついている二人である。ヨンギの妻、ジョンヨンは小さな子供服の店を経営しながら無収入に近い夫を支えている。時にはお笑い番組のプロデューサーやその家族にまで菓子折持参で主人をよろしくなどとあいさつに出向くが相手にされない。若手期待株と呼ばれながら結構な年になってしまったヨンギとジョンヨンには子どもがいたが二年前に亡くしている。妻のジョンヨンは孤児である。そんな身寄りの無いジョンヨンとの結婚にヨンギの両親は反対であった。みなしごを嫁に?それだけは止めてくれと泣きつかれても、芸の道を歩み始めてしまったヨンギにはもう後が無い。

 そんなヨンギに鶴企画なる怪しげな黒スーツの男二人組みが近づく。俺達が業界にコネをつけてやる。3ヶ月以内に売れっ子にしてやるから支度金に一千万ウォン用意しろと持ちかける。相棒のチョルスは乗り気になってもヨンギは金でテレビに出る気はない。なめるなと突っぱねる。意地を見せた訳だが芸が認められぬ現状は変わらず再び下積み生活に没するヨンギ。鶴企画の二人は今度は妻のジョンヨンに同じ話を持ちかけるが即座にサギと見破られその場でもみ合いになる。その際軽く突き飛ばしただけのジョンヨンが気を失って倒れてしまう。やばいと思った鶴企画はジョンヨンを病院に運ぶ。そこで初めてジョンヨンに死期が迫っていることを夫より先に鶴企画が知らされる。身内と間違えた担当医からもう助からないあんたら今まで放ったらかしかと怒られてしまう。実際放ったらかしていた夫のヨンギは後に妻の店の権利書をパクって作った金で鶴企画に例の件これでもう一度進めて欲しいなどとのこのこ現われる。これには鶴企画もたまらず女房より成功かと説教する。どうせインチキなのに。そして妻の病状を初めて知ったヨンギだが改心して体を気遣ってやっても妻は拒絶する。現実を認めたくないのだ。私の体は何ともないし貴方は直に成功すると言い張る。病身を引きずるようにプロデューサーの妻にあいさつに行った際に発作で倒れて再び病院へ。そこまでされて無視しきれなかったのか実力なのか不明だがプロデューサーからお声がかかりテレビ番組「お笑い王」に前説ではなく予選出場者として出演が決まるヨンギ&チョルス。

 コンビのネタそのものはあまり映画に登場しない。舞台裏のドタバタや心痛ぶりをメインに描いているがそれで正解だと思える。本番中に病院からかかった携帯をコントを続けながら受けたが我慢できずに舞台から走り去る場面も印象的。恋女房が死にかかっていてもコントができる訳がない。できる奴はドリフターズに入れる。万年若手期待株のヨンギは病室に駆け込むが妻は何ともないから今から帰るなどとまだ意地を見せる。何故助けを求めないのだ、亭主の俺にはもっと甘えろと激すヨンギ。この種のドラマには定番中の定番とも呼べるシーンでポロポロ泣く私の姿こそコントであろう。が、そうした意地の張り合いもやがて終わる。ヨンギ&チョルスは人気者になった。ある朝ヨンギが目を覚ますと元気だった頃と変わらぬ素振りの妻が朝食を作っている。二人で食事をしながらさりげなく妻が切り出す。忙しくてもちゃんと食べること、選択も覚えるようになどとよく聞けば遺言である。またそんな弱気をと争うことはもうしない。わかった、他にはと真剣に聞きながら飯をゆっくり噛みしめるシーンで涙腺大破。もう止めてってくらい泣かされた。監督のオ・ギファンも何度観ても泣いてしまうんですと自分で言う。出演者達も行く先々の試写会で泣きまくっているという呆れたぐしょ濡れ作。ポルノ同様家族で観ると恥ずかし度満点なので苦手な上司とでも、ねえ。