それでもアンタ持ってんの?である

 日比谷シャンテにて韓国映画猟奇的な彼女」を観る。主人公は頭は良い方だが勉強は嫌いだからしないと言い張るぐうたら大学生。キョヌ。ある夜の電車の中での出来事。キョヌのそばに泥酔した若い女が現われる。それが物語りの準主役である猟奇的な彼女だ。酔った勢いなのか座席にかけている若い男を立たせて老人を座らせてやったり硬骨漢なところを見せる彼女。が、次の瞬間には老人の頭にゲロをぶちまける。そのまま失神した彼女に老人はお前の恋人だろ、もういいから連れて帰ってやれと激す。そうじゃないんだけどとは言い返せないキョヌは、猟奇的な彼女をとりあえず安ホテルに連れて行く。自分もそこに泊まるつもりでいたが、彼女の携帯にうっかり出たのが失敗。見知らぬ男に拉致されたと疑う電話の相手にそこはどこですかと問われ○○ホテルですがなどと正直に答える。しばらくして部屋に踏み込んだサット部隊に衝撃弾をブチ込まれ気を失うキョヌ。

 その後お互いの誤解を解くために何度か話し合ううちに友人関係になる。が、猟奇的な彼女は酒が入ってなくても口より先に手が出る女だった。二言目には「殺されたい?」と自分の主張には絶対反論させない。その主張もカフェに来たらコーラよりコーヒーだろ、お前も飲めコーヒーといったレベルのものなのだが。タッパが高く肩幅広く誰にでも言いたいことをづけづけ言ってそれがいちいち面白い。猟奇的な彼女は典型的なハリウッドコメディのヒロインである。韓国の映画界にもそうしたヒロイン像が定着しはじめたのかと思う向きもある。それと同時に私が思い出したのは70年代の邦画における女番長ものであった。あのムーブメントと同じ質のものが韓国の若者の心をつかみかけているのではないか。森田日記なんか輸出したらウケるのではないか。

 日本の今の若者は猟奇的な彼女にしばかれたい願望はあまり無いような気がする。女王様は好景気な時代にもてはやされる存在なのだ。村上龍の「トパーズ」を私は未見なのだが多分当時見なけりゃチンピクできない生な映画だったのだと思う。

 猟奇的な彼女の猟奇性はどこから生まれたのか。家庭は何不自由ない暮らしをしている。白龍似の父親も酒ばかり飲んでいるが暴力は振らない。母親もおっとりした大人しい性格である。実は彼女は一年前に恋人と死別していたのだ。恋人のいない世界を受け入れられずもがく日々の中で次第に大酒とバイオレンスを覚えてしまったのだ。が、キョヌの存在は彼女の虚しい心に少しずつブレーキをかけていった。親のすすめでお見合いするけど友だちとして紹介させてもらうわねと随分ナメた態度で紹介させられた相手の男にもキョヌは誠実だった。永く付き合うつもりなら守ったほうがいいことがいくつかあるよなどと大酒とバイオレンスへの用心を相手の男にレクチャーする。その優しさにグラついた猟奇的な彼女の心はキョヌに戻ってしまうのだが。最後までハッピーなのかその逆なのかわからない悲喜劇ロマン。マゾヒズムについて昔家主のエイチとしみじみ語り合ったことがある。二人ともあまりイケるクチではないが口撃と飲尿くらいなら興味があると告白しあったものだ。当時はどのアイドルになら口撃され飲尿させられてみたかったのかもう思い出せない。とにかく韓国の若者は本作に登場する猟奇的な彼女にボコボコにされてみてえと身もだえしているらしい。猟奇的な彼女は「転校生」の頃の小林聡美に似ている。その気持ち全然わかりませんね。