新案ウイスキープリントである

 今年三月上旬に早稲田松竹で再観した「タクシードライバー」にはややおののいた。公開から年月が経っております関係上、本編フィルムの状態が悪くお見苦しい箇所があります云々との断り書きが半券と一緒に配布されていたのだ。どの位オンボロ化しているのか心配だったが状態はやや赤茶けたウイスキー色にくたびれていた位であった。去年の相米慎二追悼上映会での「セーラー服と機関銃」のウイスキー化に比べればまだ「タクシードライバー」はほろ酔い。

 しかし私は個人的にあのウイスキー色は好きである。あれはあれで味のあるものだと思う。十代の頃の日曜の昼下がり。男子ボインちゃん大会にまたも一杯食わされたTVジョッキー日曜大行進の後に始まるどうでもいい邦画劇場を思い出す。今一度再観すれば貴重な作品と気づくものもあったかも知れない。が、当時の中学生にとっては全く退屈極まる昭和40年代の喜劇映画やBクラス、Cクラスの日活アクションなどは心底げんなりさせられた。画面のウイスキー化もそのままならシネマスコープを強引にテレビ画面に押し込んで人物の顔がタテ長になっていることもしばしばだった。休日のそのような時間に自宅でゴロゴロとテレビにかじりつくしかない一般家庭をおちょくっているかのような。しかし今私はそのようなウイスキー映画を好んで観に行く。何も無い休日の何も無さっぷりにダメ押しの一撃をいただきに行くのだ。もうこうなったら。

 いつか映画作りに関わる機会があればその作品はカラーでも白黒でもないウイスキー作品に仕立てたい。始めからオンボロ。案外高い評価を受けたりするかもしれない。ジム・ジャームッシュ林海象もやらなかった情けない回帰。できたてニュープリントのウイスキー映画は私が考えました私が。で、内容もアチャラカにしてしまうと悪質なレトロ趣味と呼ばれそうなので中身は硬質に。教育映画にしたい。「四年三組のはた」のような。でもエロもいれたい。じゃあ監督中原俊でそのまんまでいいじゃねえか。まだヒネるか。教育映画でピンク映画で女の子映画もスパイスに。主演つみきみほで。ガミガミ先生役で。それでSなの。私はそんな映画なら毎日を休日にしてしまっても全力で制作にあたるだろう。資金集めにキャバレー歌手にもなろう。女装だ女装。湿原に鶴がくるゥと。