それも機動力でいいのかってんである

 近所の古本屋で五百円で買った戸川昌士著『おまた!!猟盤日記』の前半を読んでいるところ。まだ脱サラ直後の戸川氏が古本屋「ちんき堂」を友人達の協力でオープンにこぎつけばかりのところ。エロ本の専門店と間違えて来店したエロ親父達に日々悩まされる店主の苦悩。私には初めて気づいた事であった。古本屋の主人というものは古本主体かエロ主体かという格付けなのかジャンル分けなのかよくわからない線引きに案外こだわっている。エッチな写真集や昔の男性誌も別コーナーに用意してあったりするのは一応古本屋らしい。街の古本屋。街の酒屋みたいなものか。「ふぞろいの林檎たち」の中井喜一の家みたいなものか。それがエロ目当てのエロ客のニーズに応え続けてるうちにどんどんエロ専門店化し、大人のオモチャや悩殺下着等々も扱うようになる。古本屋とは名ばかりのアダルトショップになるらしいのだ。出入口の自動ドアには山の内酒店などと白字で印刷してあっても店そのものは大手コンビニであったりするようなものか。酒屋捨てたんかと。古典一本でがんばっていたが、ラチがあかないので新作落語やピンク映画評や男優やお色気インタビュアーや色々こなすうちになんだかわからないけどエロの大御所になってしまうようなものか。

 ニーズに応えるとは誠に難しい問題であると他人事ながら思う。アダルト系しか値が付かぬのだからとエロに近づくのも街の古本屋にはかなりデンジャーな冒険かと。その筋にはその筋のルールっちゅか掟っちゅか多々あるだろうし。当時はパッとしなかった後の大物アイドルのアダルト仕事などに付く高額プレミアムとか、ねえ。あまりはしゃぎ過ぎて国宝級の額にまで競りあがった場合どうするのだろう。国はどうするのだろうかと。元は五百円のジュニア向きエロ雑誌のグラビアに自家用車が買える額の金が右から左へと。ちょっと待てと思う人も大勢いると思う。そうした事で一騒動持ち上がって片付いた後にはそれまでの経過をある種たかりマニュアル的に利用する人間も現われたりしそうである。イタチごっこもうっかり制止できないといったところか。

 それにしても弁護士という肩書き付きのテレビタレントが量産された世紀末後の日本であるが今のところ欧米並に近所の小競り合いにも弁護士が我も我もと押し寄せたりはしないようだ。訴訟そのものがカッタルイからだと思う国民性として。パチンコ屋やラーメン屋に行列する根気ならあるのに訴訟は待ってられない国民性。訴訟は紳士のスポーツだか何か納得させるムード良好なタレント弁護士の登場を待つか。