日曜はダメよじゃ済まないんである

 久方ぶりに土日に休みを取りエイチと水○温泉へ。待ち合わせ場所に車で現われたエイチの体調は下の中だった。前日の晩に仕事がらみの付き合い酒があり、そのままロクに眠らず昼間は子供の運動会に参加して夕方には私と水○温泉。仕事に振り回され家庭に振り回され最後にお前にまで振り回されるんかい、OKわかった心中な、心中。といった殺気走った目でハンドルを握り夜の関越をかっ飛ばすエイチ。私の方も昼間は仕事でヘナヘナであった。

 ハッキリ言って家で寝ていたい二人が半泣きでドライブしなきゃいけない理由はあるのだろうか。眠いんだけどパーキングで飲み食いすると後が怖いからこのまま飛ばすわとエイチ。そこへ車窓を叩く大粒の雨。クリンビュウのCFを想い出す鈍臭いワイパー。新聞の三面記事に取り上げられるような台風の中で潮干狩り中に水死する家族連れをこうなると笑えない。つまりはこういうことなのだ。金も余暇もその場その時使い切る以外致し方ない小市民には突然の悪天候、体調不良なんぞ全く目に入らないんである。気がつけば命懸けのこの温泉旅行にしたって数日前にエイチから届いたハガキに、予約取れました。いやあ楽しみです。などと浮かれた予告がされていたのである。もう戻れない。戻れないのかなあなどとクリンビュウな車窓に額を押し付け土砂降りのハイウェイをひた走る。水○温泉街こちらと書かれた看板の脇を徐行する。あっ水○温泉街だ。高度経済成長期そのままの歓楽ゾーンが今も目の前に。射的場、ピンボールスマートボールなどなどは前を通るだけでワクワクする。が、中に入ってゲームに興じようとはあまり思えぬ。何となく幼少期のアルバムをめくってるような感じ。そっとしておきたい感じ。ケンちゃんチャコちゃんなあの時代の空気。一軒の射的場の店内に山田まりや似の茶髪にカジュアル着姿のお姉ちゃんが人懐っこい目で笑いかけている。「あのお姉ちゃん持ち帰りOKかなァ。」とエイチがつぶやく。んな訳ないだろと私は笑ってしまったが、そんなものでもあるらしいのだ。旅館やホテルの隙間に取って付けたように点在するスタンド食堂はあれはつまり東京の風俗街にあるインフォメーションフロアの役目をはたしているらしい。ザッと見渡すとそのような掘っ建て食堂は十数軒程あった。そこにそれぞれ十名弱のレギュラーな婦女子がスタンバイしているとすれば温泉街全体では百名弱になる。一晩に千名に近い観光客のうち七割が大人の男としよう。軽く酒を飲んでついでにコンパニオンともじゃれてみようと思い立つのは三割の三百人弱になるのではないか。その三百人が勢いに乗って場末のストリップ劇場になだれ込む。三百人劇場。コンパニオンよりも刺激的ちゅかそのものずばりなタレントさん達のお体に反応した三百人はとりあえず宿に戻る。が、その晩の三百人中三人に一人は残りの金を握り締めて掘っ建て食堂に駆け込むのである。朝まで待てないんである。今夜は今夜しかないのさ。そのようにして毎晩百名様分の熱いものを、ホットスタッフをどうかする水○くの一は総勢百名と私は読んだ。射的場の山田まりやもくの一か。くの一かどうか次回じっくり確認したい。一人で。男一人で温泉旅行も不気味だが男二人でも不気味である。男三人でも男四人でも不気味である。このいかがわしさを保存したい行政などがあるわけではなく皆あの時代から一睡もしてないんである全く。