ボール取らして欲しいんである

 先だって防衛庁近くをプラプラ歩いていた時のことである。何だってお前がそのような場所をプラプラするのかと訝しがる訪問客の方もいらっしゃるか。その日は新宿に用があったんである。昼間新宿で用を足した後は、伊勢丹の前を通り抜けてあけぼの橋を通り抜けて防衛庁の方までひた歩くことにしている。その付近に「ドンチッチ」なる都内では知名度の低いコンビニエンスがある。そこへたどり着くと「ドンチッチ!」と声を出さずにはいられないんである。お前のそのような馬鹿な習性はどうでもいいが防衛庁付近で何か見たのかといぶかしがる訪問客もいらっしゃるか。見ました。それは一枚の手刷りの電柱広告である。

 可愛がっていた猫ちゃんがどうやら防衛庁の敷地内に迷い込んでしまったらしく「一般人の当家にはどうにもできません」と協力者を募っている内容のものであった。もしこれを読んでいる防衛庁の関係者の方、猫の一匹や二匹どうにかしてやりましょうや、ねえといった方向に持ちかけてもらえませんでしょうかと広告の主は願い出ているのであろうか。防衛庁を防衛する立場の人々のディフェンスが猫一匹でそうヨロけてしまっては困るのは国民である貴方達のほうでしょ。などと何処ぞで聞いたような口調とおよび目で反論されそうである。私共は非国民でも結構どうぞ愛猫をこの手にもう一度抱かせておくんなましか何か広告の主は叫ぶであろうか。どうなんだろうか。猫一匹。一般人である広告の主一家にたった一日でも防衛庁の敷地内を猫探しさせてあげることは出来なんだろうか。猫が猫であれば問題ないことであろう。本当に只の一般家庭の飼い猫でそれを探しに来た一家も本当に何ちゅことないごく普通の一般家族であれば。家族も族には違いないと。むしろ一番用心すべき族ではないかと。そう言われるとそうかも知れぬ。いずれにせよ隣家の庭にボール取らしてもらう野球小僧とハゲ親父とのバトルとは訳が違うのであろう。そんなこともつゆ知らず防衛庁の敷地内でヤモリや油虫やらで日々しのいでいる猫ちゃんに何かメッセージする手段は皆無であろうか。防衛庁内でも既にギャギングされているのだろうか。猫が迷い込んでるらしいじゃないスかなどとつい口に出した職員はどうなってしまうのか。グラウンド十周。それは好都合ではないのか。ペナルティとして敷地内を走らされていると見せかけて猫探し。ミーコミコか何か小声で。フリスキーを安全靴のソールにすり込んでおくべし。しかし現実には猫が只の猫じゃないことを想定することだけが隣家の仕事かと。