ルーキーなトゥナイトに逢引きである

 三百人劇場で開催中の「中国映画の全貌2004」にて「ションヤンの酒家」を観る。今春公開されて観逃してしまった作品だったが、個人的にはヒット感中の上。ワンバウンドして外野スタンドに入っちゃうやつ、アレ何て言うのか忘れたけどあんな感じの当たりかと。

 重慶の旧市街にある屋台村で毎夜小さな小料理屋を営む女のお話。つまんない話よ、聞くゥ的なアルコール抜きには付き合えぬ夜の蝶、夜の花、夜の帝王(あくまで自称)たちの夜とぎ話である。女の店に丸々一年もフラリと通い続けてはフラリと帰るやさぐれ中年男を次第に意識し始める女、ションヤンは30代半ばのやつれかけた美人だ。が、20代でちゃんと結婚してあっさり離婚したまっとうな女なのに何故か愛人顔。旦那を取った事は無く、女腕一つで小さいながらも人気のある店を守りつづけたのにも関わらず愛人顔。夜の女の顔なのである。女の顔不幸としては他にも女なのにオカマ顔とか宝塚の男役顔でその気も無いのにズーレ界のアイドルに祭り上げられてしまうケースとか80年代までは多々あったと思う。が、この旦那も取ってないのに愛人顔である不幸は新世紀までも不死ある。「ションヤンの酒家」を観ながら私は早く家に帰ってボロ酔いで藤圭子をリターン再生しながら万年床で朝を迎えたくなった。そのような気にさせる程本作の役者達の演技は皆真に迫っている。リアリズム。リアリズムで行こうということか。血を吐くような貧困とか退廃にふける若者群像とか経済成長ビンビンじゃないと描けないモチーフなんだろか。忘れかけたものを呼び戻したい気持ちから描かせるということもあるのかも。

 ションヤンの私生活を支える(男女関係抜きで)法律相談所の所長の息子は大学生だが失恋の為に精神を病んでいる。この息子役の俳優の演技にはおののいた。台詞は一切無く父親に腕を引かれて街をうつろにとぼとぼと歩く表情と姿勢だけで「普通じゃないのか」と気付かされる。ションヤンと所長の話し合いで酒家で働く田舎娘と彼は結婚するのだがそのセレモニーの中でも終始無言だが説得力充分のアプローチ。どんなアプローチかと言えば「やっぱ入院してたのは本当なんだって」と言われてた頃の大江慎也を思い出すあの眼、あの手付き腰付きである。私は早く家に帰ってボロ酔いで「ケース・オブ・インサニティ」をリピート再生しながら万年床で朝を迎えたくなった。あの俳優の名前をチェックし忘れた。が、ショーン・ペンよりマシュー・モディーンより個人的にはシビれた廃人ぶりに快感とも感ず自打球。