見ている人はやはり見ているんである

 今年の夏は映画『リンダ・リンダ・リンダ』を観に行く他に楽しみもないようなことを先月ウダウダと書いたが、結局まだ映画は観ていない。その前に郷里の茨城県鹿島市に帰り、母親とラドンセンターにて村芝居を観るというトホホな夏休みを過ごすハメに。「あたしも年だわよ、もう28じゃね」と和服に結髪姿で客とじゃれる一座の座長の貫禄にたじたじ。完全にツケが回った感で青春映画に向き合う気力がありません。
 ここはひとつ大人に立ち返ってみては。アダルト・オリエンテッド・ロックで。AORで行こうかと。もう、こうなったら。クリストファー・クロスでしょ。猟奇犯罪者みたいなルックスに当時は引いていたが今はしみじみ聴き入れそう。ホール&オーツの「サラ・スマイル」の艶っぽさなども大人になるまでわからなかったが、ジョン・オーツ何だか怖かった。AOR系のミュージシャンは皆、顔が怖かった。ああいう音楽の受け皿になっていたのがどんな聴衆だったか想像もつかぬが。国内で当時AOR路線で売り出してたアーティスト達も一様に何か気持ち悪かったような。
 日本のAORとは正確に言えばニック・ニューサに限ると思うが。アダルトでオリエンテッドなロックでしょ、何よ、ニック・ニューサじゃない。「サチコ」じゃない。そうだ「サチコ」で行こう。AORなやさぐれ中年風吹かせて行こうかと。パーマなんかウン十年振りかピチッと当ててみようかと。男はアタマ。作業ジャンパーのポケットからは携帯のストラップならぬキーホルダー。当然般若。Tシャツはアーティスト物、メッセージ物はもう子供じみて着れぬ。ローカル物、ふるさと物だろう。好きですサッポロがんばろう神戸からめんそーれ沖縄まで幅広い着こなしを見せようかと。足元は健康サンダルか婦人物のつっかけで決まり。
 こうしてフルモデルチェンジ化したニック・ニューサな私の行く先はやはり夜のネオン街か。錦糸町辺りの安スナックで一度飲み明かしてみたいと願いつつ結構な年になってしまった。体力的に朝までドンチャン騒ぎなど夢のまた夢になってしまった。泉昌之の『新さん』みたいなやさぐれ中年像も私のような青二十才位になり果ててしまって。
 しかし世間には柳沢慎悟のようにどうした訳かこれ以上老けない体質の若年寄りといった人々もいる。いわゆる父っつあん坊やだが。外見上は老けないというだけで若死にしちゃった父っつあん坊やスターも多いような。ま、とりあえず今年の夏は柳沢慎悟に一人注目。