その意味でも裸者と裸者である

 区役所に国民健康保険の支払いに行ったとある平日の昼のこと。支払書の額に私の住所氏名と自宅の電話番号が印字されている。その下に勤め先の電話番号というのが印字されている。が、私にはその電話番号に覚えがないのだ。一つ所にちゃんと勤めた過去がそもそもないのだからその番号の勤め先も実際場所を教わってももう忘れているかもしれない。日払いで町工場を転々と働き歩いてたこともあるのだから。
 が、私が引っかかったのはその腰かけ勤め先の電話番号を役所の人間がどうやって調べ上げたのかということだ。恐らくそうした書類を作成する際にこの男の勤め先の電話番号を記入しなくてはならないので早急に調べるようにと上司に命じられた誰かの手腕によってそれは遂行されたのだろう。私本人に連絡をしようとしたがつかまらないので仕方なく独自に調査したと思われる。何やら消費者ローン的なスパイ劇を最近では町役場レベルでも展開させつつあるのだと感ず。
 その後で大戸屋にふらりと昼食に出かけた。いつものようにまずレジで会計を済ませレシート(注文伝票ではなくて普通のレシートである)を受け取って好きな席に着く。しばらく待っていると自分の注文したメニューの品を店員が愛想良く運んで来る。何も不思議なことはないとずっと思っていたのだが隣りの老夫婦の不思議そうなヒソヒソ話に私もハタとなった。その老夫婦はつまりこんなことを話していた。始めにレジで会計を済ませた時の店員はキッチンにも他の給仕にもさばみそ定食ライス大盛り入りましたなどとは一言も発していない。ぼそぼそと注文を復唱しながら打ったレジシートを客に手渡すと奥へ引っ込んでしまう。その間に注文をしたその客がどのテーブルに座ったかを確認してはいないし他の店員がチラチラ気にしている様子もない。それでも適当に座ったそのテーブルにレジにいた店員とはまた別の店員が当たり前にメニューの品を運んでくるのは不思議ではないのかと。
 「今はあれだ、コンピューターでつながってるから全部」とその老夫婦は納得していた。私はコンピューターの知識は皆無だが少しでもコンピューターをいじっている人から見ればこの給仕システムも何がどうなっているかわかるのだろうか。言ってしまえばのぞき趣味科学の平和利用ということになるのだろうと思うが。思うが平和の為に日夜働くそうした技術者の倫理感にエラーが生じる可能性だって充分ある訳で。のぞき合って暴き出し合うピーピング紛争は階級を問わず今後も深刻になるでしょう。うねりを伴います。