連行したくもない不良親父である

 2月21日、下北沢シネマアートンにて「ガラスの使徒」を観る。監督は金守珍、原作と脚本と主演を兼ねるのが唐十郎。そして本作のコンセプトは中島みゆきの「地上の星」から唐十郎が得たものらしく中島みゆきも占い師役で客演している。中島みゆき内田春菊は映画に友情出演してもどのシーンに現れたものか忘れてしまうほど大部屋的に板についているが今回も秀逸だ。
 唐十郎が演じるのは伝説のレンズ職人であり、完成すれば億の値で開発学者が買い取る天体レンズを半年以上もかけてひたすら磨き続けている。が、その間に生活は冷え始め高利貸にこずき回されるはめに。そんな暮らしの中で知り合った身寄りのない美少女、葉子を演じるのが佐藤めぐみである。ネオン街のどぶ川に身を投げた葉子を助け出したレンズ職人は、後日その葉子と自身の働く工房の事務の恋仲に気付く。
 それからは晩年のフーテンの寅さんのごとく若いカップルのキューピット役に転ずる。が、寅さんと違って秘密クラブでホステスとうじゃけたりはする。それだけでなく映画の冒頭で天体レンズを夢中で磨きあげる途中、この辺りが女の尻みたくもう少しそのとか言いつつズボンを下ろして尻をムキ出しにする。確かにもうキューピット役に回る年にはなったが決して俺は寅さんではないぞという主張がひしひしと伝わる。それは美尻でありヌードモデルで食いつないだこともある青年期を彷彿させる。
 そしてやおら尻をムキ出しにしたレンズ職人はそのまま回転する作業台の上の天体レンズに尻を押し当ててうくくとよがり声を上げ始める。なんとなくポルノ小説の大家がペンを走らせるその際中に自ら股間を握りしめる様子と似ている気がする。完成すれば億の値が付く一世一代の作品に尻を押し当てて快感を得る製作者の気持ちとは一体。
 ポルノ小説家の例以外には人気アイドルに間違いなくなる、なりつつある新人タレントをベッドに呼び寄せる大物プロデューサーの心境か。そんな背景なくもないと思ってくれ、何しろ寅さんじゃないからという主張が多少なりとも伝わるような。やはり若かりし頃からスキャンダリズム、セックス&バイオレンスな看板掲げて暴れ回ってきたその行きがかり上そうした方面に廃業の告知は死ぬまで出せないのではないか。
 60歳を過ぎた男がもうさすがに若い女の尻を追いかけるのはバカらしくってというのは当然だが唐十郎はそうもいかぬ。バカらしくたって女の尻は追うしもっとバカらしいことを誰に頼まれるでもなくやってしまう。その人生は光り輝くとその美尻が吠えた気が。