いぶし銀のちょっと嫌な女である

 フーミンに新恋人?わかった。河出鄯文庫の新刊『ロマンポルノ女優』(早乙女宏美著)を読む。カバーに記された著者のプロフィールには“日活ロマンポルノ「縄姉妹 奇妙な果実」で映画デビュー。以来ピンク映画、演劇、パフォーマンスなどで表現者としての多彩な活動をつづけている”とある。映画デビューは1984年である。
 その後の多彩な活動の始まった1985年頃に私は都内に一人暮らしを始めたはずである。そして知り合ったばかりの家主のエイチに誘われて新宿の、今は閉鎖された芝居小屋にて早乙女宏美の舞台を観たのだ。蛍雪次郎一座や山本竜次などを中心としたお笑い劇団の講演であった。早乙女宏美の役どころは芝居の冒頭にネグリジェ姿でうつらうつら現れて「今まで何してたの?」か何か周囲に問われると急に凶暴になり「オナニーだわさ!オナニ!」などとモロ肌脱いでムズムズおっ始めるというものであった。
 当時18歳の私にとってかなりショッキングなパフォーマンスであり、写真週刊誌にも取材されたりしていた。今の露出物ビデオに出演している少女らに比べればどうということもない内容かもしれない。が、あの頃にしてみれば早乙女宏美のクソ度胸はいたいけな青年であった私とエイチのガラス細工の心を強打した。その当時は随分年上に感じていた早乙女宏美だったが、本書によれば映画デビューした1984年には20歳だったらしい。ならばあの舞台に上がっていた頃は21歳で、私とは3つしか違わなかったということか。ま、18歳の男子から見た21歳の女子は残酷なまでに大人なのだが。
 そして早乙女宏美は現在では主にエロ業界のライターをしているらしい。本書の他に『性の仕事師たち』、『奇譚クラブの人々』などの著書もある。『奇譚クラブの人々』は私も読んだ。その時も感じたことだが、文章は少しつたないのだが写真資料が豊富な上にボリューム満点でついつい入手してしまうという性質を、早乙女宏美の本は持っている。これは著者の痛ましいまでのサービス精神の反映である。
 文中でも自身についてはロマンポルノ絶滅期にポッと出てあまりロマンポルノ史に影響のない作品をいくつか残しただけのケチな女優という位置付けをしても先輩女優の残した仕事に対するリスペクトは強く私生活やその後の人生になるべく触れぬ仁義も立派なものだ。彼女の今後の活動に期待したい。個人的には若者向けのロマンポルノ専門のミニシアターを設立したりして欲しいのだが。ベニヤ板造りのおでん屋みたいな小屋でも逆に気分出ると思うんですあたし。