冷やかし続けて早二十年である

 現在、私の住まう仮説住宅の前の通りをお岩通りという。あの『東海道四谷怪談』のお岩さんのお岩通りである。お岩さんのお墓は近くのお寺に祭ってあり、これまで何度か訪ねたつもりであった。が、大概は酒を飲んだ帰りか宿酔いの果ての怖いもの見たさが手伝った時である。
 最近になって改めてお岩さんのお墓を訪ねてやっとわかったのだが、私がこれまで両手を合わせていたのは、お岩さんのお墓がなぜ現在では四谷ではなくこの地にあるかを説明した案内板と、たまたまその辺にある石塔であった。本当のお墓はその奥にちゃんとあったのだ。20年近くも付近に住んでいながら、こんなことにようやく気付かされるとは。
 これは何か因縁めいたものを感じると私は思った。で、それはつまりラピュタ阿佐ヶ谷にて近く上映される中川信夫作品『東海道四谷怪談』を、今一度じっくり観よと。そういうメッセ―ジなのか知らんと。なるほど中川信夫かと思い、私はひとまずラピュタに向い、本日は中川信夫特集『プレイガール』を観ることにした。
 73年7月2日放映ということは同シリーズ夏の定番、怪談ものか。出演は沢たまきひし美ゆり子以下プレイガールズの他に天本英世、ピーターなど。天本英世はもう初老といった観だが、ピーターはまだふっくらピチピチのアイドル時代である。当時のこの種のドラマにありがちな半分敵、半分味方の小悪魔的存在としてプレイガールズの邪魔もし支えにもなる役どころ。どうもヤングピーター目当てとおぼしき女性ファンも会場のあちこちに。それも納得の中性的魅力のカメレオン振りであったが。
 怪談映画の大御所、中川信夫による本作が怖いの怖くないのって、そりゃ怖いんですけど。オープニングでレイプ体験により発狂してしまった良家の令嬢が、屋敷の奥間で鎖につながれ発作にうめいているシーンだけで見てはいけないものを見たような。いや見てはいけないのだ。今本作を都市部のテレビでオンエア―することは無理だと思う。では当時は娯楽として成り立っていたのか。成り立っていたのではないか。その位、血なまぐさい時代だったのではないだろうか70年代初頭は。私ももし当時小学校低学年で、たまたま普段ならもう寝ているはずのあの時刻に、たまたま本作を観てしまったなら。オープニングの発狂シーンだけでもほぼ一生もののトラウマになったであろう。
 しかし中川作品には戦慄の雨あられの後の、一杯の桜湯のような心暖まるシーンがラスト近くには必ず用意されている。その桜湯に気を許してまた恐怖と戦慄の世界に裏を返してしまう私。次回は『東海道四谷怪談』を。