時間切れ引き分けの半立ち状態である

 私がちょくちょくのぞきに行く神保町の中古ビデオの店がある。つぶれたレンタルビデオ店からごっそりありていの品を入荷しただけの、よくある店とは一味違うネチっこい店で気に入っている。最近その店で『君は裸足の神を見たか』のビデオを二百八十円で入手した。その店には同じビデオが四本あり、パッケージの汚れにより八百円、六百円とランク付けされていた。
 昭和61年度作品の本作は、私にはちょっと特別な映画の一つだ。都心で一人暮らしを始めた頃に知り合った友人と、自分の稼ぎではじめて観た邦画なのである。そういう映画がATG作品で、そういう映画館が今は焼肉レストランになってしまった大塚名画座ということは。いや当時は年下の恋人とスピルバーグの映画を観に行ったりもしていた。スピルバーグもATGも違和感なく両方好きだったのだ。
 『君は裸足の神を見たか』はタイトルからしていかにも湿り気たっぷりだが、ATG作品の中では割合ポップで親しみやすい方ではないか。何がポップで親しみやすいかといえば、ヒロイン洞口依子の度胸満点の濡れ場がである。この映画を当時一緒に観た友人とは、実は家主のエイチだったのだが、確かエイチの誘いで観たような気がする。同時に思い出したのだが、後日エイチは私に洞口依子のヌードグラビアを「差し入れ」てくれたのだった。もちろん私は大喜びしたが、私がすっかりファンになってしまった洞口依子のグラビアを平和利用することがエイチにとって一体何の利があるのか少し不思議だった。
 それでまた思い出したのだが、その頃エイチは同級のひとつ年上の女子に片思いであり、その女子が洞口依子に似てるっちゃ似ていたんである。休日に映画に誘っても乗ってこなくてと私にこぼすエイチに私は特に同情もしなかった。が、考えてみれば洞口似のその彼女は、同級の中では私を含む徒党の一員で、一緒にグループ旅行などもしていたんである。そしてエイチは私とは通じてるものの、その徒党からは受け入れられてなかったんである。思うにルックスの問題であろう。
 そしてそんなエイチが私に、洞口依子の魅力を文字通り体で教え込んだ背景はそこにあったのではと今頃気付いたんである。上手くすれば本作同様、親友同士の男二人と片恋の女一人の変式デートに運べやしないかとにらんだのではないか。純朴な私をよそ目に回るメリーゴーランドの下でスカートに手ェ突っ込んだろかと。純朴な奴の手前声も出さずにジッとこらえるだろなヒヒヒッか何か一人興奮してたのではないか。今となってはその位の桃色体験もあってよかったと思うが時間切れか。