千三百円で歴史にお立会いである

 6月30日、渋谷ユーロスペースに出向き、その夜のレイトショーの整理券をもらう為に階段に並ぶ。昼の11時半頃で客層は中高年女性、会社員、大学生とさまざま。どうやら整理券は無事入手できそうかなと私は安心してペットボトルからエヴィアンをぐびぐびやる。 で、何のレイトショーかといえば細野劇場です細野劇場。音楽家細野晴臣が過去30年以上のキャリアの中で関わってきた映画音楽作品を特集上映する本イベントの楽日である今日のゲストは細野支配人その人なのである。生細野見たさにこのような時間から劇場に並ぶ私も含めた彼等はこの後夜の9時まで何をしているのか知ら。
 私はといえば整理ナンバー80の整理券(と、いうより入場券で千三百円でこれを購入するもの)を入手してJRで池袋まで戻った。新文芸座で脇役列伝なる特集上映があり、その日は芹明香の『四畳半襖の裏張り』と『黒薔薇昇天』。映画を観る為の時間潰しにまた映画というのも変だが、メインは生細野なのでこれもまた良し。仮眠も充分とりつつ夜まで新文芸座でねばってまた渋谷。何やら高校生並の映画熱が戻った感も。りんがはっとの夏ちゃんぽんを食べて再びユーロへ。
 その夜の出し物は『ベルヴィル・ランデブー』なる海外アニメ作品だった。始め私はフライヤーの“細野支配人による理想の映画音楽作品上映+トーク”をこう解釈した。それは細野支配人が理想とする過去の名作映画のコラージュに細野晴臣によるオリジナルのサントラをかぶせるというものだったのだが。そんな仕事をたった一日の映画館のおまけ興行の為に依頼できる訳がない巨匠であることを細野さんはついつい私達から忘れさせてしまうキャラクターの持ち主なのだ。
 実際はアニメ上映の後、「オールナイトでもいいけど、ま、終電まで」続いたトークショーも録音、写真撮影は禁止されキャパ150弱の客席の三分の一は関係者という天上人振りだったのだが。孫が観に来ているということからかその夜の細野支配人は大ノリのよう。タイタニック号に乗っていた自身の祖父に憧れた少年時代を頭の中でフラッシュバックさせている様子。おじいちゃんが何か言うと客席中がドッと沸いたものという憧憬を孫の脳裏に刷り込ませたいのかいつもの含み笑いでここだけの話を連発する。
 主にパクリネタが中心であったがサントラの仕事では海外の大家が自分の曲を堂々と盗作することもしばしばだとか。「向うの方が世界的に有名だから何も言えないけどね」ということだがお金の話をすればユーロどころか今頃渋谷が買えたのか知ら。