いつかクネクネする日は今である

10月19日、ラピュタ阿佐ヶ谷にて「熱狂のグループサウンズ時代」『ザ・タイガース 華やかなる招待』(69年 東京映画 渡辺プロ)を観る。客層はGSリアルタイム世代の中高年男性に女性が中心か。前回、同劇場で『ザ・タイガース 世界はボクらを待っている』を観た際に見かけたノリノリのおばさま客らの姿も。
ロッキー・ホラー・ショーのマニア客らにアレルギー体質な私だが、GS映画に最前列でクネクネ踊るこの種のおばさま客らには割合好感を持っている。で、今日もまた、案の定オープニングの『シー・シー・シー』の演奏シーンで早くもクネリにクネリ始める彼女らの反応に私も思わずつられたり。親指と人差し指で涙の粒の形の輪を作るとそれをビートに合わせて客席の下で右に左に揺らしてみたり。わかっちゃうんだなァ。何が?!
前作『世界はボクらを待っている』も68年公開であるから同じ年に2本もの主演映画に出演している訳で当時のモンスター振りがわかるようだ。GS映画の舞台というのは意外と人里離れた地方の山村であったり都会のグランドホテルのパーティールームであったり高層ビルの屋上、建築現場の片隅であったりするのはつまり人目につく場所でロケを行なえばパニック必至の異常人気の中でそれらの作品が制作されていたことを意味する。映画の中でジュリーやマチャアキをワーキャー追いかけ回すファンの大群は制作陣の検閲をパスした安全な暴徒なのだろう。
タイガース主演の二作品にてマドンナ役を演ずる久美かおりは今で言うと緒川たまき鈴木蘭々を足して二で割っても割らなくてもいいけどま、そんな線の魅力あふれる当時のアイドル女優だが。心なしかどちらの作品でもジュリーに最も接近するこころの恋人役にありながら少しやつれ気味なのだ。映画の中でジュリーにからんでいるというだけでともすれば生命の危機にさらされるような場合も当時は日常茶飯事だったのかもしれない。そう考えるとアイドルファンの気質というのも60年代後半から現在にかけて大分移り変ってしまった感も。
人気アイドルのドラマの中の相手役に嫌がらせを企む牛乳ビンの底型丸メガネをかけたおさげ髪の薄汚いセーラー服のヒステリー少女なぞは今ではコントの中にも登場しない。ファンの方にもそれほど濃厚な思い入れがないのかしらとも思ったが昨今の韓流ブームなぞ私はうんと遠巻きに眺めているだけなのでその渦中の様子まではまるでわからない。個人的には結局誰も命までは落さなかった喧噪をクネクネしつつ振り返っている只今が幸福なのかと。