あんこ椿は苦しまぎれの只今である

2月20日、深川不動尊にて『南かなこ・ど演歌ストリートライブ』を観る。門前仲町の駅で降りたのは初めてのこと。確かこの地では三十年以上もの歴史を持つ無声映画の定期上映会が今も開催されているはず。何やら町全体がそうした昭和クラッシーな空気をある部分自然にある部分わざとらしいまでに残した珍妙な地である。
駅前のモスバーガーでホットドックとコーヒーを頼みまず腹ごしらえを。モスバーガーが近年赤と緑にのれん分けしたことは知っているがその違いが未だにわからない。緑の方がこじんまりしていてメニューもシンプルかなとも少し思ったが。
そういえば森永ラブとかドムドムとかいかにも80年代調のファーストフードも近年見かけなくなった。ファーストフードをデートのメインに持ってく高校生カップルなんて今はもう存在しないのだろうか。埼玉県幸手市にはその名もサッテリアなるパチ物ファーストフード店が80年代にはあってまずまずの人気だったが。サッテリアは今もあるのだろうか。
81年生れの南かなこの好きなファーストフードはどこか知ら。プロフィールには好きな食べ物、餃子、バナナ、月見うどんとあるが。これらを一時にペロリといけるならば名古屋辺りの飲食街の雑多振りに大喜びしそうだが。
深川不動尊の正午、南かなこは深紅の振り袖姿で登場した。集った観客は15名弱か。この種の催し物には必ず現れる何をして生計を立てているのかわからない人々、平日の昼間の図書館にたむろする中高年をもっと元気にした感じの、白ツナギの背中に南かなこの直筆サインを飾ったドライバー風だが本当にそうかはまたわからない人。私がこれで三度足を運んだことになる南かなこのこうしたイベントの全ての会場で見かけたことのあるおばさん。おばさん一人に限らず南かなこのファンは皆ひたむきで熱心なのかも知れない。
当日は小雨がパラつく中で機材のトラブルや場所移動などもあったがそれもまた楽しかったような。『北の宿』まではよかったが『あんこ椿は恋の花』で完全にオケが途切れるもアカペラで歌いきる勇姿には思わず拍手が沸いた。ラストは御当地深川を舞台にした艶歌『木遣恋唄』でシメたが。こうしたよろめき物を情感たっぷりに歌ってもエロチックではない、エロくはないがそれとは別の味わい深さが出せる点でなるほど都はるみかと思った。南かなこ自身の演歌界ロールモデル美空ひばりであるがひばり経由で都はるみを追いかけた方がブレイクしやすいのではとも思った。たった15名弱の無料ライブを沸かす今は今として。