これが俺の家だと呼びたいんである

3月24日、大塚のとんかつ屋にてとんかつ定食八百円に納豆百円をトッピングしていただく。物置小屋のごとく狭くひっそりと薄暗き店内だが不思議なリラックスムードのある店ナリ。お前の言うリラックスは信用できないと当コラムを何度かたぐり読んでくれた諸兄は思うかも知れない。実際グルメ系ムックに取り上げられるような店を偶然にもそれ以前からヒイキにしていたような例は過去一度もないのだから。これからもないのだから多分。
多分世間的には別にうまくもまずくもないそのとんかつ屋で昼食をとって山下書店に立ち寄る。エンケン特集の『ミュージックマガジン』を買いそびれてしまった。ので、エンケンインタビューの載ってる『スタジオボイス』を入手して。帰宅後、山下書店のビニール袋から『スタジオボイス』を取り出す。と、折り込みチラシが2通袋の中から出てきた。1通は昨今話題の脳トレ物、もう一つは美容整形物。どちらも私には縁がない。と、書くとまるで自分が知能指数300、容姿端麗であるかのようだがそうではなくて経済的に手が届かない。日々の生活に追われるのみでもう少し知恵が回ればとかもう少しアゴが割れればとか夢想する余裕すらない。しかし世間の人々はこのようなチラシ1通をきっかけに軽い気持で己の頭脳や容姿をカスタマイズしてしまうのか知ら。次のボーナスで別人格を手に入れるつもりでせっせと働く勤め人は決して少数派ではないのだろうこうしたチラシが出回る所を見ると。
 で、別人格化した後はどうするのか知ら。ハッキリと目鼻立ちやら口調もテンポも急にビキビキとなったまま今まで通りの職場で働き続けるのか。その位もう今は脳トレも美容整形もポピュラーな物なのか知ら。何にせよ対話の途絶えた時節柄であるから自分の娘がある日突然巨乳化しようと息子がある日突然電脳化しようと見て見ぬ振りが精一杯の家庭がザラなのでは。自分が毎月与えているおこづかいでは買える訳もない高価なジュエリーを身に付けた娘とそのことには触れず仲むつまじく手をつなぎファミレスで食事する母娘なぞ珍しくもなくなったが。
 何やらこうした家庭レベルでの知らぬが仏体制が地域レベル、企業レベルであちらこちらに増大し続けているような気も。親の目を盗んで勝手な振る舞いをするようなお前はもう家の子じゃありませんよ、とは言えぬ親も社会的に叩けばホコリの出る体でありだから叩かんといてか何か冗談まじりのお呼び目で哀願する日々であり。何と言うか現代では一家に一冊、岸辺のアルバムといった感が。ねぇ、竹脇無我