六年越しの精神注入である

 5月16日、シネアートン下北沢にて 「監督 相米慎ニ 『夏の庭 The Friends』」(94年読売テレビ放送)を観る。前回本作を観たのは2001年11月の銀座シネパトスでの相米慎二追悼上映でのこと。今回再観してみて前回はほとんど内容を飲み込んでいなかったのかしらと思うほどストーリーの大半を忘れていた。
 三国連太郎演じる孤独な老人が何を生業にして「結構ため込んでるらしい」のかも今回ようやくそれが病院の死体洗いのアルバイトだったのかと気づいた次第。そんな誰もが嫌がる仕事を務められるのも戦地での異常な体験があるからであること。ジャングルの中で原住民の娘の腹部を切り裂くとその娘は妊娠していることに気づきおののいたという異常体験の影響で内地に戻っても自身の妻子の前に父親として姿を見せる勇気がなくそのまま失踪してしまった過去と世捨人となった現在とのつながり。その辺のことに前回はまったく気づいていなかったと痛感す。
 相米作品の中では比較的シンプルな人物関係とわかりやすい展開で知られる本作の一番ネックの部分を未消化のまま2001年の追悼上映の時は画面に向き合っていたような。何をそんなにガチガチに身構えていたのかといえばやはり相米慎二の突然の死に対するとまどいからだったような。映画監督の相米慎二が亡くなりましたよね、がんで、『セーラー服と機関銃』のほらといった話題を振るタイミングも数日後の「9.11」でで失してしまったような。どっちが一大事だと思ってるんだと言われれば、いや相米慎二の映画の魅力は「9.11」の詳細よりも探求したいと個人的に思うが。
 上映時間の都合、監督の意志等でカットした膨大な未公開フィルムをチャンポンにつないでロシア映画並に丸一日上映するようなイベントも今後は強く望む。観る方もヘトヘトになって通いつめるようなアポカリプス・ナウな野外上映なんか。会場にたどり着くまでが『野火』の世界。相米慎二の全作品を完全上映します巌流島でなんて企画が立ち上がらないものかしら。
 ところで『夏の庭』には女教師役で戸田菜穂が出演している。エンディングテーマはZARDが歌っている。なるほど94年かとそこだけ感心してしまったが。この先いかにも90年代的なものって何ぞ浮き出てくるのかどうかと思った。ZARDか、やっぱり。アニソンの台頭とか。『ションベン・ライダー』のエンディングで河合美智子の歌声にウルルとなった私にZARDは興ざめであったが。20年後の四十男たちが本作を観終えてクゥーッZARDと涙するものなのかと。