それこそがホロ苦い男の優しさである

5月19日、ラピュタ阿佐ヶ谷にて「添えもの映画百花繚乱 SPパラダイス 『トップ屋取材帖 悪魔のためいき』(69年日活)『トップ屋取材帖 影のない妊婦』(60年日活)」を観る。SPとはSister Picture、つまり姉妹篇の意。一時間足らずの中篇映画を二本立て封切りするスタイルが確立した時代の添えもの、つまりオマケの方の作品を集めた企画のよう。
60年代半ば生れの私でもこのスタイルはまだはっきり覚えている。それどころかたのきんトリオの初期作品、薬師丸ひろ子の初期作品にはまだこのスタイルは健在だったのでは。SP物のスタートは50年代初期というからその後30年近くはずるずる続いたということか。今回特集される作品群もやはりオマケだけあって内容的にはどれも地味っちゃあ地味であるが。
が、トップ屋取材帖の主人公のトップ屋、黒木三郎を演じるのは水島道太郎でありカタキ役は高品格である。東映ヤクザ映画で悪い組の親分役が定番の水島道太郎が本作では「ちょいとイカす男前の」事件記者で高品格はまだ若く血気盛んな用心棒を演じている。他の上映作品も主演、加東大介、主演、E・Hエリック、主演、川崎敬三などともかく一度は観ておきたくなるようなものばかり。本作だけを観た場合、水島道太郎にもメインでイイモノ役の全盛期があったように思えてしまうがこの作品はあくまで添えもので当時はこの作品の表に売り出し中の青春スターの作品が上映されていたのだろう。現在のジャニーズのイベントに登場する少年隊のようなものか。
水島道太郎もよく見ると決して若くはなく『太陽にほえろ』のボス並の中年期ながら一匹狼のトップ屋を精一杯ニヒルに演じている。少年時代の私には水島道太郎と鶴田浩二の区別がつかなかったが。今改めて観ると松方弘樹にも似ているような。じゃあ目黒祐樹にも似ているのかといえばそれは違うような。
が、石橋凌ははっきりとこの路線の東映顔だなと最新作のインタビュー記事を読んで思った。『ア・ホーマンス』の冒頭の登場シーンのメイクアップがあまりに絵に描いたというか実際その筋の技術者が筆をとったはずの東映顔だったのが当時はキツかった。キツいくらいに自らはまっていったからこを今があるのかとも思う。思うが石橋凌のその今は本来誰か他の根っからの東映育ちのスターが負うはずだったような。最新作で妻を寝取られ狂気に走る東洋の黄色い悪魔的な役どころの石橋凌健さんをいじめる悪い組の親分役の水島道太郎の晩年が私の中で90%ビターに重なり合うのだが。