篠沢教授を見る目が今変わるのである

6月10日、シネヴェーラ渋谷にて『官能の帝国 ロマンポルノ再入門』、『鍵』(74年 にっかつ)を観る。当初のプログラムではこの日、『㊙女郎市場』、『花芯の刺青 熟れた壺』ともう一本、相米慎二『ラブホテル』が上映される予定であった。が、フィルムの保存状態があまり良くないとのことで神代辰巳『鍵』に差しかえられたよう。
観客は若年層中心で女性も多い様子。今回の特集にかかるような70年代のロマンポルノは現在でも場末のピンク映画館でちょくちょく上映されている作品ばかりなのだが。まったく同じものを渋谷のお洒落な劇場でかけるとアルコール臭ただよう中高年男性客とは真逆の若者たちがゾロゾロ集結してしまう不思議。バブル期にかっての小便映画館をやっつけ改装で若者向けのお洒落なサブカル系映画館に転向させたロッポニカ時代に比べれば実際進歩だ。それは格段の進歩なのだけれど。あの頃ロッポニカに通っていたムサイ映画青年たちは今どうしているのかしらとシネヴェーラの客席をキョロキョロしたり。
ピンチヒッターとして組みこまれた『鍵』は『ラブホテル』を楽しみにしていた観客にも案外ウケたよう。原作は谷崎潤一郎観世栄夫演じる56歳の大学教授が若い妻を手下の義太夫に「半分は嫉妬し半分は感謝しながら」誘惑させる。最後の最後まで己を裏切らないふりだけは忘れない妻の本性を暴くのに夢中になるのは教授よりも間に割り込んできた実娘という複雑なる愛憎メロドラマ。神代演出はほぼ谷崎ワールドの変態性に忠実でありながらこの実娘のキャラクターだけはちっともヌメヌメしたところがない。
一応は教授の手下の義太夫のフィアンセのような立場にありながらまったく色気を表出させない。自分はともかく周囲の大人のヌメヌメ関係をさらに濃厚にヌメらせることに生き甲斐を感じているような振る舞いばかり繰り返すのだが表面上はいたってクールである。そんな風に大人をからかって何が楽しいのかと問いただしたくもなるが。なるが大人たちは正直告白すれば「週に一、二度の」そうしたヌメヌメ関係を「この正月からというもの遂には命を削るようにして」続ける日々が本当に楽しいのかと娘は逆に問いかけているような。
仏頂面ではしだのりひことシューベルツの『花嫁』を口ずさむ娘のクローズアップと終いにゃ魚眼レンズをも駆使して繰り広げられるファックシーン。ファックする壮年とする気もしない巫女のようなその一人娘の視線。命賭けて燃えた恋なのかそれは誠になどとは下半身で思案できることではないが思案したくもなる映画か。