理科実験室の水は松脂の味である

8月9日、シネスイッチ銀座にて山下敦弘監督作品『天然コケッコー』を観る。山下敦弘監督は今年すでに『松ヶ根乱射事件』を発表している超売れっ子監督である。本作『天然コケッコー』の舞台は木村という名の海と山にかこまれた架空の田舎町。実際のロケ地は島根県の浅利海岸近くのよう。小中学校合わせてたった6人の分校に東京から転校してきた「イケメンさんの」男子生徒とそれを迎える町一番の美少女とのラブストーリー。の中に田舎町ならではのスローな日常が主に男女間のトラブルが原因の込み入った人間関係なぞが描かれた意欲作。「ゆったりとしたあたたかな感動!」が確かに観る者を包むのだが。
個人的には前々作の『リンダ リンダ リンダ』で相米慎二の影響を匂わせて直後のインタビューでも『台風クラブ』が好きだと発言していた山下監督のまたも学園ドラマかと期待していたのだが。本作のクライマックスには中学生活のしめくくりに誰も来ない理科実験室で主演のカップルがキスをするシーンがある。そのキスシーンがまったくと言っていいほどに息もタイミングも合っていない。相米慎二なら三日三晩唇がグローブのごとく腫れあがるまでリハーサルを繰り返すであろう重要なシーンのはずなのだが。このシーンはどう見ても夏帆岡田将生という売り出し中の若いアイドル二人が素に戻ってんじゃえっとなぞと互いの唇をまさぐりかけては止めているだけにしか見えない。それで行くと決めたのは山下監督だと思うが。売り出し中の若いアイドル同士だけに濡れ場を追求するのは困難だったとか。いややはりドッパズシのままの方が逆にナマイと監督が判断したのだと思う。相米慎二ばりに三日三晩ねばりにねばって本当に本気で一生の思い出を作る田舎の中学生カップルの姿を撮っても仕方ないと判断したのだと思う。ややもすれば60年代、70年代、80年代とこの類の青春映画のエンディングにつきものである性愛もしくは人間の命の重さ軽さを突きつける主要人物の頓死なぞがそろそろ無効ではというメッセージかとも。そんなもので冷水浴びせられるほどいたいけな若者は今家から出ませんものというメッセージかとも。それよりCMアイドルの夏帆が映画の中でマジチュ―してて結構イヤラシイという周知の事実に参加することの方がリアルなのではというメッセージかとも。リアルったらそれだけのことかと言えばじゃあ何のことですかというメッセージかとも。超売れっ子監督山下敦弘は実は90年代のAV作品にも影響受けていてカンパニー松尾なぞもお気に入りとか。