ナウなフィーリングはお蔵入りである

ここのところずっと夜な夜な『気まぐれ天使』のDVDを順ぐりに観続けている。以前に入手した同番組のサウンドトラック盤もまた引っぱり出してみた。するとサントラに収録されている小坂忠&ウルトラによる歌と演奏は本編にはあまり使用されていないことに気づいた。
ではどんな音楽が主に使用されているかといえば当時のコメディドラマにありがちなボヨヨヨーンまたはホワホワホワワーンといったズッコケ効果音とそれに近いBGMばかりがしつこく使われている。じゃあわざわざ小坂忠&ウルトラによるナウなフィーリングのサントラを作ることもなかったじゃないと思う。が、小坂忠&ウルトラによるナウなフィーリングのサントラを本当は本編にバンバン使用したかったスタッフはいたのだと思う。サントラの出来にも充分満足していたのだと思う。
ではなぜそれらの楽曲を使用できなかったのか。番組にははじめからボヨヨヨーンまたはホワホワホワワーンなズッコケ音楽を引き受ける音楽班が存在していたからだろう。これと似た違和感をかっての歌番組でも多く感じたような。昔の歌番組にロックまたフォークのバンドが出演する際に彼等は演奏させてもらえなかった例が少なくなかった。番組にはダン池田とニューブリードのような座付のビッグバンドがすでに用意されていたからだ。『ハチのムサシは死んだのさ』のヒットで知られる平田隆夫とセルスターズが何かの歌謡祭で演奏なしで出演していた姿は私にとってのトラウマである。小学生だった私にすれば大人も大人な男女六名が一本のスタンドマイクに群がりニコニコと身をくねらせ合唱する様子は異様そのものであった。この人たちは普通じゃないと思った。今思えば普通じゃないのは制作陣の方針だったのだ。ところが番組にビッグバンドとのしがらみがなくても演奏させてもらえない例もわりと最近まで残っていたような。
『テレビジョッキー日曜大行進』で『チャコの海岸物語』を歌ったときのサザンオールスターズは学生服姿でちゃぶ台を囲んでいたが客席からは怒声が飛んでいたり。それはやはり楽器を持ち込んで演奏する際に生ずる費用を番組は面倒みないという背景の為なのか。じゃあスタンドマイクにメンバー群がって歌えばいいんかいと半ばヒステリックになっていただろうあの時のサザンにとって学生服とちゃぶ台はギリギリの妥協点だったのかも。今では大物ぞろいの「演奏させてもらえなかったあの頃」のメモリアルDVD集なんて出たら売れそうだがそんな古傷えぐられてたまるかいと反発食らうか逆にあおるのか。